第21話「種明かしのターン」
式典は刻一刻と進む。ホテルの支配人ファルファラの言葉で締めくくりだ。
ガチャンと電気が全て消えて周りは騒然する。
「夜を羽ばたく蝶より美しく―」
ヒールの音が聞こえる。妖艶な美女の声。
「この世に存在する宝石全てよりも美しい―」
演出染みたスポットライトが怪盗を照らす。美しい長い紫髪を持つアラクネ。
「怪盗スパイダー、ここに参上。予告通り、聖杯は頂きますわ!」
「予告通り?予告通り、偽物を盗んだの間違いだろ」
「あら。貴方は噂に聞くダンピーラ。そちらの人間も知っていますわ」
「怪盗の癖に宝の事を何も知らないようだな」
グリフィスは怪盗と対峙する。怪盗スパイダーは彼を見据える。不機嫌そうだ。
「お前の最終的な狙いは魔導書を自由に開いたり閉じたりできる、この人間だろう?
ならば勿論、魔導書についても知識はあるはずだな?」
「えぇ。古き時代、天使と争い続けた悪魔を封印した書物。天使も天界へ戻るための
扉として使っていたという話もある。どんな優れた者であっても封印を解くことは
出来ませんがソロモンの子孫である彼女だけは自由に扱える」
どうだ、と言わんばかりに胸を張るスパイダーをグリフィスは鼻で笑った。
「所詮、その程度か。教養のない怪盗だな。七柱の悪魔についても詳しくは
知らないのだろうな。そうだろう?ホテルオーナーに化けていた怪盗スパイダー」
スパイダーの表情が動いた。周りで聞いている者達も目を丸くした。
「全く、困ったものだわ。でも無茶苦茶な推理も信じてみるモノね。本当に
小説のようだったわ。もう少しオーナーを大切に扱って頂戴」
「うわっ!?え?箱入りオーナー!!?」
荷台に乗せられた巨大な箱にはファルファラが収まっていた。小柄な彼女だからこそ
入ることが出来るのだ。そのカートを運んできたのは千景。鬼の伝承通り、
それなりの膂力があるようだ。
「大方のプロットを作ったのはアンジュ・リリィだ。だからその下書きを話して
貰おうか、アンジュ」
「はい!―」
作家ならではの妄想が全ての下地である。推理小説。誰が誰に化けているのか。
こう言った場所で怪盗が動きやすいのは勿論、全てを取り仕切ることが出来る
人間の方が不自然感はない。入れ替わるのならファルファラが全ての準備を整わせて
からが一番良いだろう。つまり、式典の直前。
「準備の際、大事な式典ですから着替えるはずです。プライバシーなところですから
カメラも何も存在していません。全てを取り仕切る彼女ならば自由にこのホテルを
動き回ることが可能です。客、というのも考えて式典に参加する人の事も
見させていただきましたが、色々変わってるんです。怪盗からの予告状が送られたこともあってランダムに絞られていた。それを調べるのには時間が掛かるはずです」
「そうだ。それと、その偽物についてだが本物は“収納済み”だ」
「…“収納”…?」
スパイダーは首を傾げた。グリフィスはアンジュに目を向けた。
「千景、落とすなよ」
「え?―危ないッ!もう少し優しく取り出してください」
千景は慌てて聖杯を受け止めた。開かれた魔導書から出て来た。
「この魔導書、かつては無かったはずの機能が付いてしまった。それがこの収集機能
アンジュが何かしら願ったのかもしれないな」
アンジュはギュッと魔導書を抱き抱える。
「じゃあ、この偽物は一体…」
「その聖杯。昔に一度、盗まれてるのさ。ある悪魔によってな。その悪魔は審美眼を
持ち、強欲。全ての宝は全て自分の物だと豪語する―」
怪盗スパイダーは偽物の聖杯を落とした。聖杯は黒い液体に変化し、床を濡らす。
スパイダーは吐瀉物を吐き出した。
「これだけで全て察したようだな。お前が思っている通りだ、怪盗スパイダー
否―天使ガブリエル」
スパイダーとしてのガワが消え、背中から真っ黒な天使の羽が現れる。
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