第19話「アンジュside 強欲な男」
正装をしているとはいえ、アンジュよりももう少し年上な大人たちが
多く集まっているバーに足を踏み入れた。煌びやかなドレスを着込んだ
貴婦人、紳士たち。彼らが酒を嗜んでいる。
「(良かった、お酒だけじゃなく普通のジュースもある)」
お酒は大嫌いだ。酔っぱらっている大人を小さい時に見て、酒を
呑むと悪い人と同じになっちゃう、という考えが今も尚、働いている。
「何だァ?ワインも飲まねえのか」
スッと隣に座って来た男もタキシードを着込んでいた。話し方は何処か
柄が悪そうだ。可能ならばすぐにでも離れたいと思い席を離れようと思ったが
バーテンダーがアンジュの前にジュースを置いた。
「まァ、飲む飲まねえは人それぞれだしな。俺がとやかく言う事はねえか。
嬢ちゃん、妙なモン持ってんなァ。人間が持つにはちと危険じゃねえか?」
グラスに口を付けて制止してしまった。隣の男は「カッカッカッ!」と変わった
笑い声を聞かせワインを飲む。
「度胸あんなァ、嬢ちゃん。そう焦んなよ。俺ァ警官でも何でもねぇ。ただの
客人さ。でも、人間でない事は確かだな」
「人間じゃない?」
「賢い嬢ちゃんならすぐ俺の正体に気付くさ。俺ァ、例の怪盗に折角手に入れた
宝を盗まれちまってよォ。ここが次の狙いだって聞いてすぐに予約したのさァ」
空になったグラスを男はテーブルに置いた。
「嬢ちゃん、あれだろ。ダンピーラと一緒にいる探偵とかって奴だろ」
「そこまで腕利きでは無いんですけど…というか探偵でも無いです!」
アンジュも空になったグラスをテーブルに置いた。
「折角だ、暫く俺と一緒に来いよ。何だか嬢ちゃんを一人でウロチョロさせると
何かありそうでこっちが怖い」
男は立ち上がり、アンジュは彼に付いて行くことにした。二人が立ち寄ったのは
カジノだ。驚いた、ホテルにカジノまで存在するなんて。
「お客様、ご利用するには番号プレートをご提示ください」
「これか。嬢ちゃん、持ってるか。部屋の番号プレートだ」
「これですよね。持ってます」
「では拝見させていただきますね。…どうぞ、お入りください」
警備員は番号プレートをチェックし、二人をカジノに通した。初回利用ということで
彼らにはそれぞれチップが渡された。10,000チップだ。
「こういうところには必ず腐った奴がいる。と、その前に試しに
やってみるかな」
男に連れられてやってきたのはルーレット。
「この数字と色を選ぶんだ。で、それが運よく当たったらチップが貰える。
何個か選ぶのもアリだな。まぁその分、当たった時に貰えるチップは少し
減っちまう。そうだなァ、俺は赤の16に300チップ。ほれ、嬢ちゃんも試してみろ」
「えっと…じゃあ私も赤の16それと黒の17で400チップを」
それを聞いて男は少し驚いた様子だ。
「良いのか?俺と同じところで賭けて」
「なんとなく、この数字が良い気がしたんです」
「ふぅん、まァ当たればそれで良いか」
ディーラーがホイールを回し、反対回転でボールを投げた。ホイールとボールは
ゆっくりと速度を落とし赤の16に納まった。
「おめでとうございます。赤の16でございます」
「おぉ!スゲェなァ嬢ちゃん!中々才能があるんじゃねえかァ!!」
「ケッ!どうせイカサマでもしたんだろ!」
中年が叫んだ。どうやらニヤニヤと笑みを浮かべて何かを企んでいるようだ。
「賭けでもしようぜぇ。俺ぁ、チップがねえんだ。お互いにチップを
賭けようぜ」
「お前、怪盗スパイダーについて何か知っているか」
「あぁ、少しだけな」
「こっちからはチップを賭けてやる、お前が負けたらその時はお前の持ってる
情報は全て頂くぜ?俺は強欲だからなァ」
お互いに承諾した。賭けの内容は人を利用し、スロットをしている二人のうち
どちらが多く稼いだかを当てる。イカサマの匂いがプンプンする。それと共に
アンジュの脳内をぐるぐる回るのは男が言った単語―強欲。
「…はぁ?」
素っ頓狂な声を上げたのは中年だった。アンジュの隣に立つ男はふと笑った。
「アイツらはお前とグル。お前が言った方に賭ける。お前を勝たせるためになァ。
お前はわざわざ俺を煽り、俺がお前とは違うところに賭けるよう仕向けた。中々良い
考えだがポーカーフェイスが出来ないんじゃあ意味がねえな」
中年の男はガクリと膝を折った。
「さぁて吐いてもらうぜェ、怪盗スパイダーの話をなァ―」
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