第3章「ドキドキ、ホテルパピヨン強欲事件」

第17話「怪盗スパイダーの予告状」

この新聞にも、あの新聞にも同じことが書かれていた。


『高級ホテル窃盗続出!?現れた怪盗スパイダー!』


その夜もまた高級ホテルに現れた怪盗が抱えるのは美しい宝石の

宝箱だ。


「では予告通り、盗ませていただきますわぁ!オーホッホッホッ!!」


マントを翻し怪盗は夜の空に消えて行ったという。そうしてグリフィスのもとに

依頼が舞い込んできた。


「これが予告状か。怪盗といえば確かに予告だが最早テンプレ化しているな」


蜘蛛の巣が描かれた黒いカードには金色の文字で


『今宵、ホテルパピヨンの宝である騎士王の聖杯を頂く  怪盗スパイダー』


と書かれていた。ホテルパピヨンと言えば人と人外、種族を問わず全てを受け入れる

最高級ホテルの一つだ。そこで開かれる開業記念日の式典でホテルに代々

継がれている宝を公に見せる。式典の見せ場の一つだろうか。


「アンジュ、そういえば貴方は東洋人とのハーフじゃなかった?」

「はい。日本人とのハーフですよ」

「ならば話が合うんじゃないのか、少しぐらい。だろう?千景」


目深に帽子を被っていた警官らしき男が脱帽する。と、同時に霞のようなものが

消えていく。見た目は全て偽装されていた。テンペスタではほとんど見られない

和服を着た男だ。顔を見れば額には一本の角が生えている。


「もしかして、鬼ですか!?」

「コイツは鬼人と呼ばれる一族の者、千景だ。で、だ。俺たちはそのホテルに

赴けばいいんだな?」

「そうです。何処かの誰かさんが新しい人間の子が探偵だから頼れば、と言って

いましたので」


その人間の子は十中八九、アンジュの事。アンジュは隣に目を向けた。グリフィスは

既に見当がついている。


「エキドナが、そう言ったんだな」

「でもこの町ではよく言うじゃないですか。珍客が来たとき、その客は町の有名人に

なるって。案外噂も信じてみるものですね」

「さっきから気になってるんだけど、コロコロと服装が変わるのはなんで?」

「妖術の一種、それと私の趣味ですよ。さぁ、行きましょう。予告状によると今日の

夜に怪盗は宝を奪いに来るようですから」


彼らは席を立ち、目的地ホテルパピヨンに足を運ぶ。ホテルパピヨンを経営している

女性はなんと精霊であるというのだ。正確には精霊のクォーター。

名前をファルファラと言う。


「貴方がダンピーラのグリフィス、そして人間のアンジュちゃんね?初めまして。

ここのオーナーであるファルファラよ。今回はよろしく頼むわ」


長い金髪の女性ファルファラの姿はまさに蝶のように感じた。


「何だ、結局脱帽したのね千景」

「貴方の言う通り、すぐにばれてしまいましたからね」

「フフフッ、まぁそれはそれで。また何かあれば呼ぶから今は自由にしていて頂戴

部屋は申し訳ないけど貴方たち二人で一つの部屋を使って頂戴。来賓も多くて

惜しいけど二つの部屋を用意することは出来なかったの」


少し気恥ずかしいが仕方がない。部屋に一度入ってから再び部屋を出る。


「良いか、何かあったらすぐに俺を探せ。首を突っ込むな」

「子どもじゃないんだから、それぐらい分かってます!」

「俺にとってはお前なんて子どもだがな」


グリフィスはダンピーラ。外見年齢は近くとも実年齢は圧倒的に上なのだ。

その言葉を言われてしまうとアンジュは折れるしか無くなってしまう。

二人は互いに別方向に進んだ。


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