第16話「謎は残るばかり」

本を逆さにして縦に振るもラファエルは出てこない。


「この魔導書。天使も封印してたのか」

「いいや。それは違うよ、グリフィス君。元々この本は封印云々ではない。

正確には悪魔が住まう魔界と天使や神たちが住まう天界に繋がる扉の役割を

持っているんだよ」


レヴィアタンはアンジュが持っている本を指さした。古き時代にはこちら側から

二つの異なる世界を繋げる力があると公にしていたが争いが絶え無くなり、その

能力を隠し悪魔を封印しているということになっていたのだ。


「じゃあ…私、とんでもない事をしでかしちゃったんだ…」

「心配する必要は無いよ。魔導書から出入りできるのは僕やアスモデウス君、

ベルフェゴール君のような力の強い悪魔とラファエルみたいな強力な天使だけ」

「それの何処が心配いらないんだよ」


レヴィアタンの言葉にグリフィスは正論をぶつけた。力が強い悪魔や天使が

外に解き放たれている。洒落にならない事態だ。怠惰、色欲、嫉妬の三柱。

そしてラファエル、ザドキエルの二体。道のりは長い。


「堕天使って、どうして現れるの?」


ラファエルもザドキエルも堕天使に変化していた。そうして悪事を起こしていた。

本来ならばあのような悪事をするような存在では無いはずだ。


「それにこの本を表に出したのも天使でしょう?どうしてそんなことを

したんだろうね?」

「何か目的があっての事だろうが…何かの儀式のプロセスか」


グリフィスも考え込む。


「そういう天使の思考は俺たちには分からねえな。が、アイツらは根っからの

堕天使にはなれていない」


ベルフェゴールは机に置かれた本をポンポンと叩いた。グリフィス邸。クマの

ぬいぐるみの姿を取る彼。


「傲慢を司るルシファーは正真正銘の堕天使だ。彼女は天使の裏の顔に絶望して

堕落した。ラファエルとかは天使と言う概念に堕落を上塗りされている。簡単に

言えば洗脳だな」

「そもそもこの本は何処とも知らない場所にあったんだよ。厳重な封印も

されていたし普通は解けないはずなんだ。だからね、君がこの本を開くことも

手にすることさえ普通はあり得ないんだ」

「そういえば前にアンジュの家系が云々って話をしてたな。本を開けるのは…」


ベルフェゴールは途中で絶句した。分かったのはアンジュ以外の全員。この本を

作ったのは誰か、七十二柱の悪魔を仕え天使とも契約を結んだ古き魔術師。

この名前を聞いたことがあるだろう。

―魔術王 ソロモン―


「俺たちの目的はただ一つ。人間の魂の浄化だ。人間はあまりに増え過ぎた。だから

罪人は増えるばかりだ。浄化は天使の仕事だろ?」


一人の男が立っていた。彼が目を向けた方向には二人の天使がいた。


「そうです。なのに、メタトロンたちは何故反対するのかしら」


最も神に近い天使メタトロンは彼等の思想に賛同しておらず、ずっと天界にいる。


「やっぱり俺の目に狂いは無かった。ソロモンの子孫、今も残ってくれて良かった」



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