第15話「氷結の悪魔」

様子を窺っていたアスモデウスたちは内心ホッとしていた。もし自分たちが

喰らっていれば激痛だけでは済まなかった。思わず耳を塞ぎたくなるような悲鳴。

どれだけ苦しいのか、よく分かる。


「(合図はまだなのか!アンジュ)」


腹を抱えて笑っているラファエルを余所にアンジュはグリフィスに目を向ける。

聖痕が刻まれた部分を抑えて荒い息をしている。

どうしたら、この聖痕が消えるのか分からない。どうにかしてこれを消したい。

自分はなんて無力なんだろうか…!

グリフィスはアンジュに目を向ける。ラファエルは油断しきっている。もう今しか

仕掛けるタイミングは無いだろう、と。

その合図はアンジュが本を開くこと。開いたページをラファエルに見せつける。


「なぁっ!?待ちなさい!!貴方、正気なの!!?ぐぅ、あぁ―!!!」


ラファエルを吸い込み、本はパタンと閉じられた。


「こんな能力もあるんだ…あ、グリフィスさん。傷はどうですか?」

「大丈夫だ。痛みも無い。俺や他ではその本を開くことは出来ないからな。

一時的に閉じ込めるだけだから、すぐ出てくるだろ」


この本の謎。グリフィスたちではこの本を開くことが出来ないがアンジュは

開くことが出来る。これも天使たちが仕込んだことなのかどうかは分からない。

本は何処か別の場所に繋がっているらしい。そこにどんな世界が広がっているのか

分からない。だけど知らない方が良いこともあるとベルフェゴールに言われた。

吸い込まれたラファエルは何度も助けを呼んだ。


「出しなさい!いいえ、出してください!!イヤァ、こんな…穢れた場所で過ごすのは

絶対に嫌よぉ…!!」

「妬ましいな。きっと何の不自由もなく生きて来たんだろうな…」


自身の嫉妬心を曝け出す悪魔に対し、ラファエルは彼を睨む。


「底辺のお前が何の用?」

「何時まで王様気取りなのかな?ここは僕たちの領地だよ?ここでは僕が王様だ」

「は?何言ってるのかしら」


ラファエルは水の槍を握る。その槍と槍を持つ手を氷が覆った。


「だから言ってるじゃん。ここは僕の領域だって。まさか、僕の事を

忘れちゃったの?僕は覚えてるよ。これでも優しくしてあげたはずだけど?」


蘇るは古い記憶。天使と悪魔のいざこざは戦争となった。互いに相打ちで

終わったように見えた戦いだがそうではない。ようやく思い出した、何時しか

その恐怖を忘れていた。目の前にいるナヨナヨとした細い青年悪魔は

レヴィアタン。ラファエルの部下たちの多くが彼によって氷漬けにされた挙句

無残に砕かれた。ラファエルはわざと生かされた。その理由はもう分かっている。


「あ、大丈夫だよ?僕はベルフェゴール君よりも優しいから」


全てを凍らせる嫉妬の悪魔にラファエルは再び無残に、恥を晒して生かされた。




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