第14話「堕天使の聖痕」

ヒューゲル学院にやってきて、まず最初に向かったのは

学院長の部屋。学院長である老女エリザベス・フォン・ヒューゲルが

アンジュの隣に立つグリフィスに目を向けた。


「彼は私のアシスタントです」


という嘘で誤魔化した。そして多発している事件について話を

聞いた。


「私も色々考えたのだけど、事件は起こるばかりなの。共通点といえば

何かしら結果を残している子たちが狙われているみたいで…」


その結果を惜しくも逃した人物が怪しいのでは。そう判断し、

アンジュの頼みで特別にエリザベスから名簿を見せて貰った。

部屋を出た。今は放課後だ。様々な部活が活動している。


「どうするんだ。その子たちに色々問いただすか?」

「そうすると黙っちゃうと思うんだよね…」


当たり前だ。自分の悪事を素直に吐く人間は少ない。これだけ

膨れてしまったから、罪が重くなるのは普通だ。バレなければ

大丈夫と思って悪事をする人間は少なくない。


「どの生徒にも警戒されてはいけないし、どの生徒と接していても

他に好印象を与える立場の生徒は一人しかいないわ」


アンジュは歯を見せて笑った。校長曰く、生徒会室にこの時間帯では

基本生徒会長のみがいるのだ。


「こっちから今回は勝負を仕掛けるんだ。既に全生徒が下校を終えている。

ただし、校舎だけは破壊しないでくださいよ?」


生徒会室では一人の女が笑みを浮かべていた。ラファエルという天使は

才能に恵まれず、才能に恵まれた者を恨む生徒を操り散々悪事を働いていた。


「あと少しで貴方が望む世界が出来上がるわ。全員が貴方を崇めるの!

なんて素敵でしょう、散々貴方をコケにしてきた奴らが手のひらを返すように

態度を変えるの!!」


それは彼女の勝手な妄想だ。生徒自身は確かに望んでいるだろうが、ラファエルの

妄言に振り回されているだけだ。ノックもせずに教室に入って来たアンジュは

ラファエルを見た。


「貴方も才能を持っているのね?」

「はい?これは才能じゃなくて、努力の結晶よ」

「そんなはずが無いわ!努力?それは紛れもない才能よ!!」


どうも会話が噛み合わない。アンジュは溜息を吐いた。


「天使は人間の言葉を学ばないんだね」

「?」

「努力も才能の一つって言うんだよ。ここ、テストに出るからね!」


アンジュはグッと親指を立てて見せた。才能がある人間は人を下に見がちである。

そんな彼らも下に見ていた者達に負けることがある。その差はどれだけ努力を

積み重ねて来たかどうか。


「私は天使ラファエルよ?立場を弁えなさい!」

「弁えるのは貴方でしょ。天使の癖に人間を悪に引きずり込んでいる。今の貴方と

悪魔を比べるのなら悪魔の方がよっぽど高位に見える。貴方は、天使失格」

「ふざけるな!私をあんな汚らわしい屑共と一緒に、それどころか奴らよりも下?

たかが人間風情が何を知ったようなことを言っているの!!!」


ラファエルが投げたのは聖水で固められた槍だ。その槍から身を挺して守ったのは

グリフィスだった。吸血鬼の血を引いている故に聖水によるダメージが大きい。


「グリフィスさん!?」

「たかが人間風情、ね…何もしないでふんぞり返る能天気な天使様よりはマシだと

思うがな」


グリフィスが放ったのは血のナイフの束。彼はその軌道を操る。


「無駄よ。貴方、吸血鬼の混血みたいだけど猶更ね。貴方は勝てないわ。相当

痛かったんじゃないかしら?だってほら…聖痕が刻まれているもの!」


ラファエルは歪んだ笑みを浮かべた、


「人間なんて庇わなければ苦しまなくて済んだのにねぇ!!アッハハハハ!!!」


槍を受けた肩に刻まれた十字架の聖痕。十字架、そして聖なる物を嫌う吸血鬼を

苦しませるには持って来いの術だ。堕天使となっているラファエルは残虐非道、

彼女が彼に送る祝福は拷問まがいの痛み。


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