第5話「黒幕を探せ」

烏から伝えられた情報はやはりアスモデウスと言う悪魔の存在。

それにプラスして配下であるベリアルの存在も知らされた。


「場所は…外観しか分かりませんね」


烏がぶら下げていた鏡には木々に囲まれた古い屋敷が見えた。


「でも特徴はありますよ。まず森の中っていうこと。後は…

花が咲いてますね」

「そうですけど、そんな場所は幾らでもあるじゃないですか」


アンジュの言葉にネロは反論した。


「いや、そうでもない。この花は限られた場所でしか咲かない。

お前はここの住人だろ、それぐらい分かってると思ったんだけど」

「だ、だって森には足を踏み入れたことが無くて…」


アンジュは少しだけ首を傾げた。ふと見えたネロの鞄。彼女は

図鑑を持っていた。表紙の絵から考えて植物図鑑。それも付箋が

びっしりと貼られていた。


「この本、ちょっと見てみたいです」


アンジュは鞄から覗く図鑑を指さした。


「えぇ、良いわよ」


ネロは快く見せてくれた。ページをめくって、屋敷の周りに

咲いていた花と同じ花を見つける。そこにも付箋が貼られていた。

それにラインも引かれている。勉強をした証拠だ。勿論、

ハッキリと覚えられていないと考えることも出来るが…。

アンジュの意図を察したグリフィスはネロを横目で見た。

何処か焦っているように感じる。


「(隙だらけだな。)」


グリフィスの目が人知れず赤い光を帯びる。



まさか、この人間がこんなに察しが良いだなんて…。

この先には邪魔だわ。力では簡単にねじ伏せることは出来るでしょうけど

混血が邪魔ね…。どうしたら離せるのかしら。

このままじゃアスモデウス様の役に立てないじゃない!



グリフィスは心の中で薄ら笑いを浮かべる。確かにアンジュはかなり

勘が鋭い。頭も良いのだろう。エキドナについても知っていた。


「アンジュ、お前は頭が良いな」

「だって、これでも作家だからね。色々調べてきたつもりですよ」

「ほぅ、作家か…」


グリフィスは再び笑った。ネロはまだ気づいていない。彼女の心の中が

見透かされていることが。混血になると力は弱まる。グリフィスの父は吸血鬼で

様々な力を持っている。その中で読心術を持っていた。彼も心が隙だらけの

者の心中ならば読むことが出来るのだ。


「さて、じゃあ行くとするか」

「えぇ、逝きましょう―」


体を貫いた剣。


「―お前だけ、な」

「・・・・え?」


銀で出来た剣。吸血鬼が苦手とする銀。ネロは悶絶する。


「どういう、ことよ…。なんで私が混血なんかに…!?」

「混血なら勝てるってか?それなりに上位の階級らしいが、頭の方は

ぱっぱらぱーだな」


グリフィスは自身のこめかみを軽く小突く。


「ダンピーラは吸血鬼を殺せる。そう言う種族だ。それに吸血鬼の力が

全く使えないワケじゃない。条件が掛けられた上で使用できる。

お前にとってアンジュの参加は予想外だったみたいだな」


少しの沈黙の後にアンジュが「あ」と声を出した。


「根拠のない推測なんですけど、良いですか?もしかしてヴァイスさんは

貴方に嵌められたんでしょうか?ヴァイスさんと貴方は恋仲ではない。

ここに来て、大胆に行動を起こしたと言う事は~…?」

「アスモデウスとグルだったって事だ」

「エキドナさんは気付いてたんですかね?」

「適当に誤魔化してたんじゃないのか。そういった術を使える吸血鬼だろ。

俺もさっきまで気が付かなかった。だけどふと違和感を覚えた。お前、

演技が下手糞だな」


グリフィスは剣を踏み付ける。地面に更に深く剣が突き刺さり

ネロは悲鳴をあげた。


「―俺は引き入れたつもりは無いぞ」

「な?え?アスモデウス、様?」


マゼンタ色の髪を持つ男。彼こそがアスモデウス、今回の事件の犯人のはずだ。


「俺は犯人じゃないよ。そんな面倒くさいこと、勘弁してほしいからね」

「じゃあ…アスモデウスさんの真似をしている誰かが事件を起こしているって

ことになるのかな?」


彼は正真正銘アスモデウス。しかしこの事件を起こした覚えは無いという。

では別の誰かが彼の名前を騙ってネロを使っていたということだ。

そして事件も起こしていた。


「じゃあ…誰だ?」

「俺に聞かれても困る。突然、封印が解けたからね」


アスモデウスはアンジュに目を向けた。彼女が目を泳がせるのを

見るとクスクスと笑った。


「こっちは感謝してるんだよ。それに悪いことをするつもりは無いからね。

犯人探しに手を貸してあげよう」


アスモデウスは内心怒っていた。まさか自分の名を騙る馬鹿な

奴がいるとは…。



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