第3話「テンペスタ恋愛戦争」
エキドナは虚空に手を伸ばす。
「壁が消えてる。交わらないはずの二つの世界を分かつ境界が
何者かに消されているのね」
険しい表情を浮かべる。アンジュがあの魔導書を手にしたことも
偶然ではないのか?何者かが狙って彼女の家に魔導書を持ちだしたのか?
真相は分からない。
「女狩りに男狩り?」
話を聞いていたアンジュは複雑な顔をした。
「女の取り合い、男の取り合い…これだけ聞けばまぁどうぞ勝手に
やってくださいって感じでしょうけどそうじゃないのよ」
この話はエキドナが持ってきた。七柱の悪魔に会うならば
面倒事を解決するのも良いんじゃないか、と。
「恋愛戦争?」
「そう!それよ!流石、女の子ね。男衆よりも察しが良いじゃない♪」
エキドナがアンジュを撫で繰り回す。関わりの無い者達の間で
この異様な戦いは恋愛戦争などと言われている。エキドナはその
被害者を連れて来た。
「吸血鬼のネロちゃんよ。彼女、七柱のうちの一柱に危害を
加えられた本人よ」
「あー…私、分かったかもしれません。その悪魔の正体」
「奇遇だな。俺も察しがついている」
「多分、皆さんが考えている人と同じです。色欲を司る悪魔
アスモデウス。この恋愛戦争を引き起こしている黒幕です!」
ネロは身を乗り出す。彼女には恋人がいる。名前をヴァイス・コルニクス。
二人の仲は良いに決まっている。そこに姿を現したのが怪しい女。
彼女はヴァイスに付き纏う。
「それでもヴァイスさんは何度も彼女を突き放していたんです」
「何て一途な彼氏!良いなぁ~」
アンジュの本音を聞きネロはフフッと笑いを漏らした。
話の続き。
ヴァイスは大胆に行動をとった。女の前でネロにハッキリと
告白をした。
『俺と婚約を結んでくれないか?俺が必ずお前を守って見せる』
それを聞いた女が激昂。本性を現したのだ。
「怪物だったの!?」
「…お前もそのヴァイスという男も色欲の術が効かないぐらいに
愛し合っていたんだな」
そう口を挟んだのはベルフェゴールだった。
「え?あ、当たり前です!」
「その怪物、そして女…全部アスモデウスだろうな。全部マゼンタ色の
髪、もしくは毛色だったんじゃないのか?そして体の何処かにハートの
刺青がある」
「はい!ありました。女の人の太ももに」
「アスモデウスは変身すると体の何処かにハートの刺青がある。そして全部
マゼンタ色の毛色、髪色だ。奴は男女の性欲を操り、彼らを不仲にも出来る。
逆も出来るしな」
「おぉ、何か色欲っぽい」
ベルフェゴールの説明を聞き、アンジュは納得していた。流石は色欲の悪魔。
直接的な被害…男が怪我をしたと言う事だろうか?
「そうじゃありません。ヴァイス様が私を庇って、連れ去られて…」
「連れ去られたのか?」
「はい。何処かは分かりません。でも、手掛かりがあるかもしれないんです」
ネロは窓の外を見つめる。木の枝で羽を休めているのは烏。
コルニクス…ラテン語で烏を意味する。名前と木の枝にいる鳥を
会わせて考えると。
「ヴァイスさんは烏を使役できるって事ですか?」
「はい。コルニクス家の使い魔は烏なんです。ヴァイス様はとても頭が良い。
もしかしたら烏たちに情報を預けているかもって…」
だが問題もある。
「烏は沢山いる。その中にヴァイスの使い魔がいるんだろうが、探すのに
苦労するな」
それだ。グリフィスの言ったこと、それこそが問題点。
「でも、ヴァイスさんはネロさんの特徴を知っているはずです。烏は頭が良い。
ヴァイスさんが彼女の特徴も教えているとしたら、自然とこちらに来るかも
しれませんし、外を出歩いてみましょう」
「頭が良いわね、アンジュちゃん。私は留守番してるわ」
「え?」
「だって私、戦うのは好きじゃないもの」
テーブルに伏せてしまったエキドナを余所に他は外に出て行く。
アンジュも慌てて外に出た。
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