第2話「怠惰の悪魔」

テンペスタはずっと夜。

時計を確認することは大切だ。朝の7時に目を覚まし、アンジュは

部屋を出る。家と言ってもこれは屋敷と言える。それなりに良い生活を

グリフィスは送っているようだ。

ブラウニーと呼ばれる妖精たちがこの屋敷には住み着いており、掃除などを

してくれているようだ。

部屋の扉を少しだけ開けてコッソリと覗くと先日アンジュが持ってきた

本をジッと見つめていた。


「どうした?中に入らないのか?」

「わぁっ!!?ビックリした…」


大きな声を聞き集中していたグリフィスが顔をあげた。身に着けていたメガネを

外し、目を丸くしていた。


「なんだ、もう起きてたのか。もっと眠ってても構わないんだぞ?」

「う、ううん。大丈夫です。えっと…この人は誰なんでしょう?」

「俺も知らねェな…」


緑色の髪を持つ若い男。左右で違う色を持つオッドアイ。


「俺?俺はベルフェゴール、怠惰を司る悪魔だ。まぁ落ち着いて話を

しようぜ?」

「話は通じるみたいだな」

「俺は何でも力で解決するタイプじゃないのさ。掛かって来たとしても

負ける気も無いしな」


グリフィスとベルフェゴールの間で火花が散る。その間に座っている

アンジュは息を呑む。頼むからそんなことはしないでくれ、そう願いながら。


「で、七柱の悪魔の一人が何の用だ?大人しく封印されに来たのか?」

「そんなことは出来ないよ。一度封印が解けたら、時が経たなきゃ

封印は出来ない。インターバルの様にな」

「・・・・」


アンジュはボーっとベルフェゴールを見つめていた。


「ん、どうした?」

「最強最悪の悪魔だって聞いてたけど、その話し方と言い容姿と言い

パッと見は何処にでもいそうな好青年だなぁって」

「俺は争いごとは嫌いなんだ。勿論、売られたら買っちまうかもしれないけど

相手から吹っ掛けられない限りは何もしない。封印の影響は僅かながらに

あるんだ」


多少なりとも弱っているらしい。復活したばかりで感覚が少し

鈍っているらしい。


「その本は俺たちの封印と同時にそれぞれの事が書かれている。

アンタ、それを読んでたんじゃないのか?」


グリフィスが頷いた。穴が空くほど見ていた理由はその文章だった。

覗き込みアンジュは目を細めたり見開いたりする。


「あ、読める!私も読めるんだけど!!」

「おー?人間が読めるとはなぁ…」


二人が驚いていた。


「なら、最初の方のページ…正確には10ページを開いてみろ」

「10だね…えっと…」


そのページを開いた。


「人間でも俺たちを使役することが出来る」

「やめとけよ。悪魔との契約なんてお前たち人間にとっては

損しかねえよ」

「そうですよねぇ…やめときます」

「そうかい。じゃあ約束事ってことにしないか?」


ベルフェゴールは人差し指を口の前に持っていく。


「俺は必要時以外では力は振るわないと約束してやる」

「じゃあ私は?」

「今は思いつかないから良い。これぐらいでなきゃあダンピーラは

納得しないようだからな」


彼はグリフィスに目を向けた。確かに少し不服そうだ。


「良いじゃないですか。少しぐらい信用してみましょうよ」

「疑ってるわけじゃねえんだけど。先の事を考えてんだ。お前は

何か分からないか?他の悪魔が何処に行ったとか、何をしようとしている

とか」

「色欲…いや、やっぱり嫉妬か?」


一人でブツブツと呟きながら悩んでいるベルフェゴールを待つこと

数分。彼がやっと答えを出した。結局、分からないらしい。


「外に出て見れば良いんじゃないのか。魔導書を呼び寄せた悪運の強い

人間。もしかしたらその悪運で呼び寄せてくれるかもしれないぜ」

「うわっ、ヤダなぁ、その言われ方…」

「そう言うな。事実だろ」

「そうですけども!そうなんだけどなぁ…!!」


言い返したいけど事実なので反論できないアンジュだった。


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