三十四話 アリス式勉強術

「あの、すみません。ここ減点されているんですが……」

「結論は合っていますが、途中の証明の部分で省略されている箇所がありましたので。高校数学では結果も大切ですが、それ以上に証明の過程も重要になります」


 早速数学の問題集に取り掛かり、一回分を解き終えて担当の家庭教師の先生に採点してもらう。

 そこで減点されていたり間違っているところについて質問して学習する――というのが七星さん勉強方法らしく、俺もその方法を真似させてもらう。


 気になったところを訊ねるとすぐに解説が飛んできて、それでもわからないでいると、紙に纏めてくれる。

 正直物凄くわかりやすかった。


 今までは授業でも解いた教科書の問題を解き直して、ノートに残っている答えと照らし合わせながら採点をしていたが、どうしても解説の部分で不足を感じていた。

 しかし、この学習方法ではただ公式を当てはめるだけじゃなく、その公式がどういうものなのか、という根底についての理解を深めてくれる。


 結果として、ただ暗記するよりも自分のものにしたという感がとても得られた。


 ……これは病みつきになるな。


 一回目の学習を終え、それを踏まえて早速二回目に取り掛かる。

 二回目が終われば三回目へ。

 シャーペンを走らせる手が止まらない。



     ◆ ◆



「ふぅ……」


 ひと段落ついたところで、わたしの集中力は完全に切れてしまった。

 時間を確認したら勉強を始めてからもう一時間以上も経過していた。


 ……疲れたわけだ。


 かるーく伸びをしようとしたけど、隣に赤坂さんがいるからすんでのところでやめておいた。

 休憩しましょうと提案しようと赤坂さんの方を見て、開きかけた口を噤んだ。


「…………」


 赤坂さんはまだシャーペンを走らせていた。

 物凄く真剣な表情で、とても集中しているように見える。


 …………カッコいいなぁ。


 ぽーっと赤坂さんを眺める。

 視線を向けてもまったく気付く様子がないから、思わずじっと見つめてしまう。


 ……ってダメだダメだ!


 ぶんぶんと頭を振って再びシャーペンを手に取る。


 元々勉強会の提案をしたのはわたしの方なんだから、わたしも頑張らないと……っ。

 気合を入れ直して問題集に向き合うことさらに一時間。


 隣を見ると、まだ赤坂さんは集中している様子だった。

 邪魔にならないようにゆっくりと席を立って廊下に出る。


 静かについてきた陽菜の前で、わたしは「んーっ」と控えめな声を出しながら伸びをした。


「お疲れ様です、アリス様。何かお飲み物をご用意しましょうか?」

「ありがとう。でも大丈夫。赤坂さんがまだ勉強してるのにわたしだけ優雅にお茶なんてできないもの」

「では赤坂様も交えて」

「だめだめ! あれだけ真剣な横顔を間近で見れる機会は早々――……赤坂さんの勉強の邪魔なんてできないものっ」

「……はぁ。せめて夕食時には切り上げてください。後一時間ほどで用意が整いますから」

「はーい」


 陽菜に返事しながら少しだけ廊下を歩く。


「そういえば、あれ、準備できてる?」

「もちろんできていますが、まだ赤坂様にはお話しされていないのでは?」

「大丈夫、赤坂さんは効率を重視する人だから、きっとわたしの提案も受け入れてくれるわ」

「……アリス様って、結構強引なところがありますよね」

「えへへ」

「褒めてません」


 どうしてか陽菜に難しい表情で怒られてしまった。

 ともあれ気分転換を終えたわたしは再び勉強部屋へと戻ることにした。

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