十五話 説明
七星さんの屋敷から家に帰った俺は、喫緊の課題への対策について考えていた。
喫緊の課題――七星さん専属のメイド、笹峰さんに俺と七星さんの関係を疑われていること。
もっといえば、俺の七星さんに対する愛情が感じられないという問題だ。
偽装交際なのだから仕方がないといえ、今日あっただけの笹峰さんにそのような印象を抱かれてはこの先が思いやられる。
俺たちの関係が疑われてしまえば、人脈作りも何もなくなってしまう。
何より、家の中でさえ演技をしてくれている七星さんに申し訳が立たない。
とはいえ、どうすれば七星さんに対して愛情があるように振舞えるのか。
考えに考え抜いた末、俺は思いついた。
七星さんをデートに誘えばいいのでは――と。
仲良くしている風に振舞えば疑われることも減るかもしれない。
何より、付き合っているのにデートに行っていないのは不自然すぎる。
「……ま、それよりも先に彼女の家に行くというイベントを乗り越えたわけだけど」
色々と順序が逆な気がすると思いながら、早速七星さんに誘いのメッセージを送る。
暫くバイトが入っているからゴールデンウィークの休みを指定した。
七星さんの既読はまたしてもすぐについて、それから少し経ってから返信が来た。
「『行きます! いつでも大丈夫です!』……か」
そういえば、偽装交際を始めてから何かを誘うのはこれが初めてな気がすると、今更ながらに気付いた。
◆ ◆
休み明けの朝。
すでに慣れ親しんだ公園の前で七星さんが来るのを待ちながらおにぎりを食べていた。
「お、お待たせしましたっ。おはようございます……!」
軽快に走る自転車の音と共に七星さんが現れる。
「おはよう。丁度食べ終えたところだし、行こうか」
「は、はい……っ」
……気のせいだろうか。
心なしかいつもより落ち着かない様子な気がする。
そんなことを考えながら学校までの道を走らせ、信号の前で自転車を止める。
すると、七星さんがおずおずと窺うように訊ねてきた。
「……その、赤坂さん。今度のデ……お出かけのことでお聞きしたいことがあるのですけど」
「うん?」
「ど、どうして突然お出かけなんて……?」
「ああ……」
確かに、恋愛感情なんてないと明言している俺が七星さんをいきなりデートに誘うなんて不自然か。
たぶん、さっきからそのことを気にしていたんだろう。
俺がそういうことを目的にしていたら契約の意味がなくなってしまうからな。
落ち着いて事の経緯を説明することにした。
「七星さんが懸念しているようなことはないから安心して欲しい。実は、今のままだと俺と七星さんの関係性が疑われるんじゃないかと思って」
「……あー」
「それに、まだ俺たち一度もデートしてないからさ。もし今後誰かに訊かれたときにボロが出るとよくないあから」
「ナルホドデス……」
俺が説明すると、七星さんは落ち着きを取り戻したみたいだった。
なんとか胸を撫で下ろし、信号がに意識を向ける。
そろそろ青に変わるかというタイミングで、七星さんが思い出したように訊いてきた。
「そういえば、どこに行きますか?」
「……あ」
そういえば決めてなかった。
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