2nd Game【究極の選択】-5
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荒い息遣いが降り注ぐ。今日あったばかりの男にのしかかられ、体を揺さぶられながら、真琴は無感動に時が経つのを待っていた。
こういうのには慣れている。大丈夫。全然耐えられる。想定していたあらゆる最悪の選択肢とは、比べるべくもない、可愛らしい命令。
『真琴。可愛いぞ、真琴』
――あー、うるさい、出てくるな。
母親の再婚相手にヤラれてたなんて、よくある話。でも、よくある暴力的な義父じゃなかった。十歳のときに家にやってきた義父は、酒も飲まなかったし、煙草も吸わない、むしろろくに女も知らないような、気弱な優男だった。
あれは、私が悪かった。私たち子どもに遠慮していた感じがしたから、早く緊張を解いてほしくて、ベタベタしすぎた。
それでなんか、勘違いされた。
最初は抱っことか、頭撫でるとか、膝に乗せるとかだった。ちょっと気持ち悪いなって思ったけど、お母さんのために嬉しいふりをしてた。
十二歳あたりだったか、弟とお風呂に入っていたら、急にあいつが入ってきた。さすがに嫌だったけど、親子になったんだし、こういうもんかって。弟はなんとも思わなかったみたいで、よかった。
あいつは、私のことをよく分かってた。母や弟のことを出されると弱いのをよく分かってた。それから、だんだんあいつの言いなりになった。
一年ほどして、母はあっさりと他に男を作り、私たちを捨てて出て行ってしまった。どうやら、気弱な義父と一緒になったのは、一度目の離婚後も手放せなかった面倒な私たちを、ていよく押し付けるためだったらしい。なぜあんな女を母親と思い込んでいたのか、今となってはさっぱり分からない。
それからはあいつの独壇場だった。人形のように抱かれながら、心が枯れていくのを感じた。たぶん、とっくに壊れていたのだ。正常な判断ができなくなってた。あいつを、私を愛してくれる優しいお義父さんだとさえ思い込んでいた。
先日、自分たちの行為を、弟に目撃される瞬間までは。
義父はいつも、深夜一時頃に私の部屋に来て、手早く用を済ませて自室に戻っていた。五つ下の弟は、姉の元気がないのを不審がって、少し前から目を光らせていたらしい。
深夜の扉が開いて、灯りをつけられて、全部が千切れた。閉ざされていた世界が積み木みたいに崩れた。途端に自分が、どれだけ気持ちの悪い目に遭っているか、全部自覚した。
しかし、あまりにも遅すぎた。気を失った私が、次に目を覚ましたとき――弟は殺されてしまっていた。
あいつが一欠片でも冷静であったなら、絶対にそんな大それたことはできなかっただろう。
涙も出ず立ち尽くす私の前で、義父は子どもみたいに泣いていた。どうしよう、真琴、助けて、と泣きついてきた。
義父は刑務所に入った。頼れる親戚のいない私は施設に預けられた。施設の人は優しかったけど、そんなのどうでもよかった。しらねーよ、誰だよ、お前ら。今の今まで、何してたんだよ。
弟が死んで、あの男は生きている――施設の中で、ずっと、ひたすら、この地獄を変えられる、神がかり的な奇跡を探し求めることに没頭した。
そして、カミサマゲームに行き着いた。
こんなカラダにも命にも、今更未練なんてない。すべてを質に入れて、私は――カミサマに、"過去に戻してもらう"。
義父に弟を殺されるよりも、この身を汚されるよりも前、私を産んだ女が家を捨てるよりも前――そこまで戻って、あいつら二人とも、殺してやる。
そして私は、弟を守りながら生きる。私ならやれる。義父がかなりの金を貯め込んでるのを知っている、事故に見せかけて殺せば、暮らしに不自由しない計算はすでにつけた。
朝は早く起きて、弟の分も食事をつくって。彼のことだから皿洗いは自分が請け負うだろう。二人で登校して、二人でゲームしたりして、夜は自分の部屋で、ゆっくり眠って――
あぁ、そんな、夢みたいな未来のためならば。私は、なんだってできる。
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