2nd Game【究極の選択】-3

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 硬直する真琴を食い入るように凝視しつつ、牧田は口の中に溢れる唾液を飲み込んだ。


 弾けんばかりにハリのある、眩しい肌。成熟のときを待つ発展途上のカラダ。一度でいいから、こんな年頃の子を抱いて見たいと思っていた。それをここで引き当てるなんて、我ながら豪運だ。まして、ちょっとやそっとじゃお目にかかれない美少女ときている。あの娘のカラダは、いったいどんな柔らかさだろうか――牧田は有頂天だった。


 しかし、一方で、ゲームの攻略にも余念はなかった。


 このゲームは単純な点取り合戦。交互に二択を出題し合い、相手がどちらを選ぶか予想する。予想が的中すればこちらのポイント。相手が出題するときも、相手の予想を外せばこちらのポイントになる。いかに相手の心理を読むかが鍵となる、シンプルだが自由度の高い心理戦。


 牧田は即座にこのゲームの攻略法を編み出した。それは――『選択肢の内容に大きな差をつけ、実行しやすい方に高ポイントをつける』こと。


 即ち、出題例にあったゴキブリとカレーの配点とは、真逆の配点をするのである。


 出題例では、ゴキブリの方に『95』ポイントもかけられていた。この場合、回答側がゴキブリを選んだときのパターンは、相手に『95』のダメージを与えるか、自分が『5』のダメージを受けるかの二通り。逆のカレーを選んだ場合、『5』のダメージを与えるか、『95』もの大ダメージを受けてしまうかの二通りとなる。


 こう考えると明らかなように、回答側には"大きな数字を選んでおいたほうがいい"というあまりに自明な事実が存在する。つまり、無理してでもゴキブリを食べるメリットが、回答側に生じることになる。


 これがこのゲームの肝、駆け引きを生じさせる部分だ。出題側からすると、相手が食べやすいカレーを選んでくるのか、腹をくくってゴキブリを食べてくるのか簡単には読みづらい。万が一にも外してしまえば、一気に『95』ものダメージを受けてしまう。


 しかし、これが逆ならばどうだろうか。


『A:オレの気の済むまでオレとセックス 10』『B:下着姿になる 90』――これなら、誰がどう考えてもBの一択でしかない。


 真琴からすれば、Bを選べば的中されても失うポイントはたったの『10』。うまくいけば『90』ダメージを牧田に与えられる。ただ下着姿になるだけで、ローリスクハイリターンの一手を選べる。いたいけな女子高生には下着姿さえ抵抗があるかもしれないが、『A』と比較すれば不思議なことに、ひどく良心的な命令にすら見えてくるだろう。そう感じられるラインを牧田は狙った。


 ここで『A』を選ぶバカはいない。見ず知らずの男に犯されまくる羽目になるばかりか、勝っても与えられるダメージはたったの『10』。あまつさえ、的中されれば『90』ダメージが跳ね返ってくれる地獄の追い打ちが待っている。


 これが牧田の必勝法。この状況を作り出すことで、牧田は真琴の選ぶ方を、百パーセント予測できる。否――"誘導"できる。


 牧田の予想は当然『B』。確実に『10』ダメージを与えられる上に、彼女の下着姿と眩しい肌を拝めるオマケ付き。股の間が疼くのを感じながら、牧田はもう一度唾液を飲み込んだ。


 こうやってじわじわ追い詰めて、徐々に内容をエスカレートさせていく。次は下着を脱いでもらおうか。そうやって感覚を麻痺させて、最後には――そのカラダの隅々まで、味わい尽くさせてもらう。


 二択の前で硬直していたボブヘアーの美少女が、ついに動いた。興奮でぞわりと総毛立つ。今、彼女は、自らの意志で選択しているのだ。その汚れを知らない肌をオレに晒すことを、自らの手で――


 真琴がその手で触れた選択肢のパネルだけが、ポーンと光ってテーブルの中央まで跳ねていき、拡大する。



『A:オレの気が済むまでオレとセックス 10』



「……へ?」


 見間違いかと思った。いたいけな女子高生は、自販機でお茶を買うような気楽さで、『A』を押したのだ。


『出題側の予想は『B』。回答側の勝利です。《実行》の完遂が認められれば、出題側に『10』のダメージが与えられます』


 アナウンスなど目に入らない。呆然と座る牧田の前に、つかつかと、少女が近づいてくる。距離が詰まるにつれ、いよいよきめ細かい白い肌、深い黒髪、綺麗な耳の形、瑞々しい唇、そして、未成熟ながらも確かな少女の膨らみが、視野を侵食していく。もはや、『10』程度の失点など頭になかった。


 本当に、今から、これを、好きにしていいのか。


「さっさと実行ましょうか」


 胸元のボタンを一つ外して、真琴は髪を耳にかけた。

 

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