2nd Game【究極の選択】-1
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妻と娘が誘拐された。
二人はそれぞれ、暗い部屋の右端と左端の
牢を開けることのできる鍵が、一つだけ足元に落ちている。
どちらかの牢を開けた瞬間、鍵は自壊し、もう一方の牢に毒ガスが充満する。
最愛の二人のうち、救えるのは一人だけ。与えられた思考の時間は一分。さて、あなたならば、どちらを選ぶか――
2ndステージで待ち受けていたのは、端的にたとえるなら、そういうゲームだった。
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光が、消える。
1stステージを突破した俺が飛ばされたのは、奇妙な黒い空間だった。床も壁も天井も境目なく、一面、夜空のように真っ黒。まるで星一つない宇宙空間を浮遊しているような感覚。
そんな空間に場違いにも、ビリヤード台ほどの大きなテーブルが一つと、向かい合わせに豪奢な椅子が一組、俺の目の前に鎮座していた。
『第一ステージ突破おめでとう、吉乃遥クン!』
俺のすぐそばで虚空の闇が渦巻き、そこから両手を広げて現れたカミサマを、俺は冷めた目で見つめた。
「他のプレイヤーは」
『ケケケッ、なんだよ随分落ち着いてるじゃねえか! 信じてた可愛い女の子に、裏切られた直後とは思えねえな!』
俺は舌打ちしてカミサマを睨んだ。
「そんな細かいところまで見てたのか。悪趣味な神様だな」
『ケケケケッ、言ったろ、オレ様のご馳走はお前らの負の感情だってな! 特に人を蹴落として生き延びようとする醜さと、死ぬ寸前の恐怖の味が最高なんだ。このゲームはオレ様にとって、それを得るためのただの手段さ。今回、お前ら四人の醜さっぷりは、第一ステージのメインディッシュ級だったぜ!』
「そうか」
僅かな時間、こいつと会話を交わすだけで気分が悪くなってくる。見てくれはキモ可愛いと言えなくもないが、その本質は、この世のあらゆる汚物を煮詰めて、生き物の形にしたナニカ。
カミサマは不意に、眉を寄せて俺の顔を覗き込んだ。
『でもなぁ……お前一瞬、本気であの女のこと助けようと思ったろ? ダメダメ、そういうの。ひと欠片の不純物で一気に飯がマズくなるんだから、二度とやめてくれよな。まぁ――そのぶん、裏切られたと気づいたときのお前の絶望っぷりは、至高の甘さだったけどなァ……!』
「それは、悪いことをした。でも安心してくれ。もう……二度とないから」
独白のように呟いた俺の横顔を、カミサマは満足そうにニンマリ笑って見つめた。
「ところで、あんたからすると右肩下がりな展開だな。既に第一ステージで、あんたの飯は半分死んだぞ」
『なに言ってんだ? ここからが本番じゃねえか』
地獄から聞こえてくるような
『ここから先は、ちょっとやそっとじゃビビらねえ、絶望しねえ、強靭な心を持った"ホンモノ"が集まる。そいつらが利用し合い、騙し合い、殺し合う……そして死んでいく! その瞬間、それまでビクともしなかった鉄の心が、初めて死の恐怖に侵され、張り裂ける! "ヤスモノ"じゃ味わえねえ高級な旨味が、口の中いっぱいに広がるんだ!』
「そうか」
『吉乃遥ァ。お前にも期待してるぜ。せいぜいオレ様を悦ばせろ! もちろん対価は保証する、勝てばその健気な望み、叶えてやろう! 不可能なんてねえさ、なんせオレ様は、カミサマだからな!』
心を盗み見られた不快感に、肌が粟立つ。思わず殺気立った俺に、『おぉ、怖い怖い』とうそぶいて、カミサマはひらりと後方へ飛んだ。
「さっさと第二ステージの説明をしろ」
『へいへい、そう焦るなよ。全プレイヤーのところにオレ様の分身がいってる。全員への説明が完了してからマッチングだ。お前はルールの理解が早いからな、少しくらい雑談しねーと待ち時間が暇だぜ』
お前と雑談する時間より、暇が百億倍ありがたい。そんな俺の思考を読んだように、カミサマは『そうかよ』とケラケラ笑った。
『じゃ、ルール説明だ』
瞬間、第一ステージのときと同じように、俺の目の前に紫色のパネルが浮かび上がった。
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【
・プレイ人数:二人
・両者はあらかじめ、互いに『300』ポイントのライフを持っている。
①出題側は相手に対し、二択の問を投げかける。出題内容を考える時間は十分以内とする。
(例)「今、食べるなら? A、カレー B、ゴキブリ」
②この際、AとBそれぞれに合計『100』ポイントを自由に振り分ける。
(例)「A:5 B:95」
③出題側は、回答側がどちらを選ぶか予想し、選択する。回答側は一分以内に一方を選択する。このとき、相手が何を選択したかは互いに分からない。
④回答側は、選択した方を公表し、《実行》する。この《実行》によって生じたあらゆる心身の状態は、ゲーム終了まで継続する。
(例)Aを選んだ場合→カレーを食べる。Bを選んだ場合→ゴキブリを食べる。
※《実行》できなかった場合、回答側は『150』ポイントのダメージを受ける。
※出題側は二択の中に、明らかに《実行》が不可能なもの、または、《実行》することでゲーム続行が不可能となるような選択肢を用意してはならない。
⑤出題側が予想を外した場合、回答側の選択したポイント分、出題側がダメージを受ける。出題側の予想が的中した場合、両者が"選択していない方"のポイント分、回答側がダメージを受ける。
(例)出題側『A』予想の場合
回答側『A』…回答側に5ポイントダメージ。
回答側『B』…出題側に95ポイントダメージ。
⑥回答側と出題側を交代する。以後、どちらかのライフがゼロになるまで行う。
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