第3話 偽の探偵
俺は長崎と千葉駅近くにある『辺見探偵事務所』ってところにやって来た。看板などはない。長崎が言うには、雑居ビルの中に辺見っていう偽探偵がいるそうだ。
「奴の正体は闇金だ」
俺は千葉から教わった闇金の詳細を思い出していた。
無登録の業者全て(金利の高低は無関係であるが、年率20.0%の金利や、取り立ての制限を守っている業者は皆無とみてよい)。
登録しているものの、出資法の制限を超える金利を課す業者。高金利により登録を取り消された業者の中には日本貸金業協会の会員もあった。
登録番号を非表示、あるいは偽る業者(090金融は全て非表示。仮に固定電話の番号を表示していても、登録番号を偽る業者も多い)。
電話番号が「携帯電話のみ」または「固定・携帯電話の番号を併記」している業者(いわゆる090金融)で、固定電話の番号を表示しない業者(登録および広告では「固定電話の番号のみ」で表示しなければならない。飛ばし携帯の番号ではほとんど足がつかず、摘発が極めて困難なため、「携帯電話の番号のみ」や、「固定電話の番号と併記」する形の登録も認められない)。
「あなたの信用状態では貸せない、しかし○○社なら貸してもらえるかもしれない」などと、別の貸金業者や闇金融を紹介するというものもある。紹介された先で金が借りられたら「それは当社が紹介したから」などと言って紹介料を騙し取るタイプのもの。いわゆる「紹介屋」。
長崎はドアをドンドン叩いた。
「うるっせーな!」
スキンヘッドの中年が爪楊枝を咥えながら出て来た。
「長崎の旦那じゃないですか?」
俺たちはソファに座り、倶梨伽羅殺しを説明した。
「やってる最中にやられるなんて可愛そうに」
「いや、やってる最中じゃない。女が外に出た、直後に殺された」
「あ〜、多分他の男に殺されたんですよ。その倶梨伽羅ってのはゲス野郎で、女を殴る蹴るとかした。警察はあまり当てにならない。新しい男は女を守る為に倶梨伽羅を殺した」
偽物にしちゃナカナカの名推理だ。
「事件があった日の10時頃、どこで何をしていた?」
長崎が問い詰めた。
「栄にあるキャバクラで遊んでいた」
辺見は『ゲバラ』って店に出かけたらしい。
俺たちは日暮れの栄に繰り出した。カラスがゴミを食い漁っている。栄は千葉駅近くにある風俗街だ。
『ゲバラ』のボーイはどことなく竹内涼真に似ていた。
俺は辺見の写真を見せ、「この男が来なかったか?」と聞いた。
「宮田さんはウチの常連でね?その夜ならムツキと遊んだぞ」
どーやら、嘘じゃないようだ。
宮田ってのは辺見の本名だろうか?
「辺見以外の金貸しの仕業かな?」と、長崎。
「支払い=闇金ってのは安直過ぎるのかな?」
俺は段々自信がなくなってきた。
「NHK、ガス、電気、家賃……いろいろあるな」と、長崎。
「家賃でも滞納してたのかな?」
「さぁな〜」
俺の無線が鳴った。鈴江からだった。
《今、大丈夫か?》
「ああ」
《佐原駅近くの伊能忠敬記念館で殺しだ》
「現場に向かった方がいいか?」
《俺たちは署で待機って言われてる。署に戻って来い》
香取署の奴ら俺たちに手柄を奪われたくないのかな?
西野は佐原駅近くのビジネスホテルで飲んでいた。「まさか、野田さんが殺されるなんてな」
ブラックニッカをロックで飲んだ。
野田は派遣社員には冷たい人間だった。
正直、西野も野田のことは好きではなかった。
ある派遣なんて野田から毎日のように殴られたり蹴られたりしていた。
「奴ならやりかねないな?」
まぁ、どうでもいい。天気予報を見た。明日は暑いらしい。明日はどこを巡ろうかな?
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