第49話 参謀総長への報告

第2方面軍司令部の査察結果を参謀総長に渡すと一瞥して頭を抱えた。

「短時間でこれだけの指摘事項が出るとはな」

「私としては訓練管理と物品管理あたりの担当者に灸を据えるつもりが、ずるずると余計なものまで引きずり出してしまったようです」


報告書の中の「余計なもの」とは組織的な経費横領の疑いである。

根拠は


・糧食費の過大請求

 糧食費は簡単に言うと兵員一人当たり決められている1日の定額×30日分を毎月参謀本部に請求して隷下各部隊に配分するものであるが、戦闘開始後に方面軍予備として編制する退役した将兵主力の旅団の人数を計算に入れ、毎月それを支払っている。

・教育訓練をしていないにも関わらず演習名目で各師団に支払ったことになっている教育訓練費

・使途不明な備品費と消耗品費

 備品は購入したならば規則上必ず管理簿に登記しなければならないが、司令部で調達のために使用した調達要求書に記された数量と登記数量に乖離がある。

 消耗品は管理簿へ登記の必要はないが、品目ごとの授受簿に記録して増減を管理して在庫を明らかにしなければならない。しかし授受簿が存在しない。

・使途不明な燃料費

 主燃料以外の補助燃料や消耗品、例えば固形燃料や整備用グリスなどの参謀本部へ経費要求するための単価と実際に調達した際の単価の乖離、しかし何故か毎月きれいに経費が消化されている。調達個数は変わらないのに。

・隷下部隊に配分されずどこかに消える厚生費

 部隊の戦力回復や地域の新聞購読のための厚生費の配分記録がない。

これは記載漏れではない。マリーは第一線を見てきたが、そんなものが配分されている様子はなかった。


「これって、一担当者がどうこうできる問題じゃないですよね」

「高級将校が当然関わっているとなると、憲兵隊が引き継ぐべきであろうな。さすが有能で名高いマリー大佐だ」

「とんでもない事でございます」

「まあ、詳しく見せてもらおう」

細部結果を求められたので分厚い報告書を渡した。


読んでいる間、これでも見ていろと人事部からの報告書を渡されたので目を通す。

ちなみに評価はS・A・B・Cの4段階評価である。


【勇者候補生に関する中間報告書】


(軍曹)


ミク・アキノ

第1方面軍音楽隊に異動


(伍長)


ゼン・スズキ

〈体力〉

持久力 B

筋 力 C

投擲力 C

〈知力〉

理解力 A

判断力 A

※ 自身を過小評価する傾向にあり

〈戦闘技術〉

射 撃 S

剣 術 C

徒 手 C

爆 破 A

通 信 B

〈その他〉

※ 体力と戦闘技術に関しては更なる向上が望める



(下士官候補生上等兵)


タクミ・ヤマザキ

〈体力〉

持久力 A

筋 力 A

投擲力 S

〈知力〉

理解力 B

判断力 C

※ ビックマウス

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 C

徒 手 B

爆 破 C

通 信 C

〈その他〉

※ 下士官候補生内での影響力大


ツバサ・ニシノ

〈体力〉

持久力 A

筋 力 A

投擲力 B

〈知力〉

理解力 C

判断力 C

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 S

徒 手 B

爆 破 C

通 信 C


コウタ・アキヤマ

〈体力〉

持久力 B

筋 力 C

投擲力 C

〈知力〉

理解力 A

判断力 C

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 C

徒 手 C

爆 破 C

通 信 C


カリン・スギヤマ

〈体力〉

持久力 B

筋 力 C

投擲力 C

〈知力〉

理解力 A

判断力 B

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 C

徒 手 C

爆 破 C

通 信 B


カオリ・ミズノ

〈体力〉

持久力 A

筋 力 C

投擲力 C

〈知力〉

理解力 B

判断力 B

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 C

徒 手 C

爆 破 C

通 信 C


チヒロ・タカノ

〈体力〉

持久力 A

筋 力 B

投擲力 A

〈知力〉

理解力 C

判断力 B

〈戦闘技術〉

射 撃 C

剣 術 C

徒 手 C

爆 破 C

通 信 C



「へぇ、思ったより頑張ってるじゃない」


いくら勇者候補生でもオールSなどという化け物はいないだろうとは思っていたが、やる気のなさからオールCがいるのではないかと想像していた。

しかし幸いにもそういう事はなく、それなりに能力が伸びているという事は、基幹要員の下士官たちの士気と能力が高いことを意味していた。

あちこちから有能な下士官を引き抜いて良かった、とマリーは思った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る