第47話 戦闘射撃訓練【SIDE ミラ軍曹】
パトン
パトン
「はぁはぁはぁ」
「バディー、大きく息を吸って呼吸を整えろ」
時々堆土に着弾して土がパラパラと掛かる。
大したものだ ― ミラ軍曹は怯んだ様子のないゼンを見て他の勇者候補生とは違う資質を見出していた。
この戦闘射撃は訓練の大詰め一歩前とも言える重要な訓練だ。
自分に向かって敵弾が飛んでくる状況に女は泣き出して動けず、他の男は突進(突撃というには無謀すぎる)のために立ち上がったところを魔人に蜂の巣にされた。
もっとも魔人にテイムされているお助けモグラがすぐに顔を出して容赦なくエリクサー(魔国の秘匿技術の一つだそうだ)を浴びせたのですぐに生き返ったのだが、痛みや魂が抜けかけた恐怖は残るので、鼻息が荒かった男どもが静かになったのは副次的効果といえるだろう。
そんな中で、敵弾に怯む様子もなく安全に位置取りをしていくゼンに、召喚される前の世界では兵士か傭兵としての訓練を受けたことがあるのだろうとミラ軍曹は思った。
― 違う
ゼンはもともと銃器大好きなミリタリーマニアであるし、戦争映画やアニメ、シミュレーションゲームやシューティングゲームなども好んでいた。
特に今持っているライフルはよくゲームで使用していたのと同じ5連発銃であるし、敵前で下手な行動をすると狙撃されるというのも理解していたにすぎない。
「いい? 弾の通るパンという音と発射したトンという音がほぼ同時に聞こえてくるでしょう」
「うん」
「これはもう敵から200m以内になったって事」
「うん」
「狙って来てるのが音でわかるでしょう? 頭を上げないようにね」
上げてもいいが痛い思いをするのはゼンだ。
「分かった」
「弾残は?」
「1発」
その時、後方からドドドという機関銃の音が聞こえた。
その瞬間、こちらに撃ち掛けられていた音が止み、暫くするとまた射撃音がしたが
今度はチュイーンというような先程とは違う音に変わった。
弾がすぐ近くを通り過ぎるパンという音が変わったという事は、機関銃の方に狙いを変えたか制圧下で適当に銃だけ出して撃っているかだ。
「堆土の横からそっと敵の方を見て」
ミラがそう指示するとゼンがゆっくりと顔を出す。
「敵が見えた」
「その敵を撃ってすぐに引っ込め」
「わかった」
ゼンは銃を突き出すようにして構えると息を整えてから射撃をし、すぐにミラ軍曹の隣に戻った。
双眼鏡で見ていたミラ軍曹は200m先のホログラムの敵兵に向かって黒い粒が吸い込まれるように飛び、ホログラムの額部分を通過して背面の土に煙が上がったのが見えた。
ホログラムが消えるのを見届けて双眼鏡をケースに戻すとゼンの方を見た。
ゼンは指示なく
この流れるような動作に、ミラ軍曹はやはりゼンはある程度の戦闘経験のある兵士なのだろうと推測した。
― 違う
撃って弾倉が空になったらリロードするというシューティングゲームの動作を無意識に出しているの過ぎない。
ゲームではR ボタンを押すと画面内の兵士が行っていた動作、つまり
「敵沈黙、出るぞ」
ミラ軍曹が立ち上がるとゼンも立ち上がった。
10mほどの距離を取ってゼンの左側を進む。
ゼンはミラ軍曹の真似をして猫背でゆっくりと前方と右方を警戒しながら歩く。
戦場を歩く際の隊形に応じたバディーの警戒方向は訓練してあるので説明するまでもない。
「右!」
ゼンが叫びながら右手を銃から離し、ホルスターから拳銃を取り出して右前方20mの草むらから飛び出して銃剣を構えて突進してくるホログラムに向けてゼンが拳銃弾を叩き込む。
ミラ軍曹が見たところ2発目と3発目が急所にあたっているが、ゼンは全弾を撃ち尽くすまで射撃を止めず、弾倉が空になってスライドが下がったところで止まったのを見てはっとした様子になって慌てて弾倉を交換した。
まあ、トリガーハッピーの気はあるが、この世界に来て今まで戦闘がなかったので余程ストレスが溜まっていたのだろう。ここを修了して勇者となり戦場に出れば満足してもらえるだろう。
思ったよりゼンは良い兵士だった、とミラ軍曹は評価した。
― だから違うって……
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