第46話 将校クラブ
バタン
ガチャリ
「マジかよ?」
補助官が呆れた呟きを放ったのは食堂前
面談が押して結構ぎりぎりの時間に食堂を訪れたのだが、将校用の入り口も下士官用の入り口も勢いよく絞められた上にご丁寧に鍵まで掛けられた。
「おーい、みんな!」
マリーが食堂前の広場で手を振り回すとすぐに補助官たちは集まった。
「将校クラブに行くよ! 今日は私が
将校クラブというのは基地内に作られた将校専用の飲み屋さんの事である。
「「「おー!」」」
「大佐殿、太っ腹!」
「馬鹿、おまっ」
太っ腹発言をした軍曹の補助官は隣の曹長に拳骨を喰らった。
「間違えました! 大佐殿はスマートであります」
「あははは、いいって」
マリーも兵隊上がりなので、これくらいの部下の軽口を気にしたりはしない。
マリーが補助官をぞろぞろ引き連れて将校クラブに入ると、クラブの責任者である所長は飛び上がらんばかりに喜んだ。
「査察があるってことで商売あがったりだろうと思ってて、でも契約だから早仕舞いも出来ないし困っていたので助かりました」
「あら、それじゃ食堂から締め出されて良かったのかも」
「締め出された?」
「ええ、夕食を食べに言ったら目の前で扉を閉められて鍵まで掛けられたわ」
「そんな事が……」
「そういうわけで、皆に何かお勧めをお願いできる?」
「は、はい、それはもちろん」
「大佐殿」
曹長がやれやれといった顔で
「大佐殿は将校の皆様を連れて座っていていただけますか。注文と運搬の支援は我々でやりますので」
将校クラブといえど飲み屋は飲み屋だ。
こういうのは下士官にお任せしてしまうのが一番効率がいい。
「わかった、じゃあお願い。注文は遠慮いらないからね」
「「「「ごちになります!!」」」」
所長はマリー達に気を回して将校クラブに隣接するセレモニーホールを開けてくれた。
20名程度であれば長テーブルに集中して座れるし、途中で他の将校が紛れ込んでくることもないので好都合といえた。
マリーの補助官は少佐1名、大尉3名、中尉5名、曹長1名、軍曹9名でそれぞれが専門の業務に通暁している。
マリーは本来であれば細部は彼らにすべて任せ、上げられてくる報告をまとめて講評を作ればよく、それ以外の時間は社交などに回せるはずであった。
もし王命の査察でなく単なる法定検査だったらマリーはそういうお気楽ムーブをかましていた事だろう。
しかし、査察官の目で見ると方面軍のやることがどこを見ても的外れにしか思えず、参謀本部から独立運営している部分の業務計画、更にはそれの根拠となる中期計画を読み込んで見直す必要があるかなと少々陰鬱な気分でいた。
「大佐殿、どうぞ」
軍曹がマリーに赤ワインが入ったグラスを渡してくれた。
オードブルとワインが行き渡ったので、早速口にする。
「美味しいね」
恐らくそれは街では平民に量り売りされているような安ワインだ。
しかし夜会で出て来るような貴族用の年季の入ったワインよりマリーは若いワインを好んでいた。
「大佐殿、今日はピザ祭りにすると所長は張り切ってました」
「ピザ!」
ピザというのは魔界から広まった料理で老若男女問わず人気がある。
きっと厨房に大きな窯があるのだろう。
「で、大佐殿、面談はいかがでした?」
疲れたでしょう? と労わるような表情で少佐が話し掛けてきた。
「どうもこうもないわ、皆言質をとられまいと必死で笑えて来るわ」
「でしょうね」
大尉が頷きながら
「
「はぁ……そういう事だけはしっかり統制するのね」
「そういう事しか頭にないのでしょうな」
「私たちが査察で、書類検査や実地検査、面談などを通じて何を明らかにしようとしているのか全く理解できていないのかしら」
「多分ですが、管理検査や会計検査とごっちゃになっているのではないでしょうか。どちらかというとこれは検閲に近いと思うのですが、司令官や方面軍そのものが査察の対象であるという意識が薄いのではないかと」
「そうね、多分」
私たちは暗くなりがちな思考をとりあえず止め、焼き上がってきたピザを手に
〔ピザ祭り〕を楽しむことにした。
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