第42話 閑話 その頃ダンジョン村では

「機関銃、脚の位置この位置、銃据え」

対空銃架の付いた機関銃を3人がかりで運んできた兵達は分隊長が示した位置に機関銃を据えると、それぞれの定位置についた。


「機関銃、右から左へ横行するワイバーン、600、リード2、指名」


上空に悠々と飛行するワイバーン

銃手は対空照準環を取り付け、遊底を開く

弾薬手は弾薬箱から弾帯を引きずり出して装弾板に置く

銃手はパタンと遊底を閉じてガチャっと槓桿こうかんを引くとワイバーンを照準環に捉える。


「準備よし」

「撃て」


ドッドッドと機関銃は火を噴き、曳光弾がワイバーンへと吸い込まれていく。

銃手は曳光弾を見ながら照準を素早く調整する。

胴体と翼に命中弾を喰らったワイバーンは錐揉きりもみでちていく。


「命中、撃ち方やめ」


銃手が槓桿を引いて遊底を開けると弾薬手が弾帯を弾薬箱に戻した。

分隊長が薬室に残弾がない事を確認すると、待機していた車両に手信号を出す。

この車両は墜落したワイバーンに止めを刺し、肉を持ち帰る為に前進する。

今日はワイバーンの肉を使ったご馳走が食えるとあって兵たちの表情は明るい。


そう、これは決して狩りなどではない。警備区域に入り込んだ魔物が迂闊なだけである。


今勇者候補生たちは基幹要員と一緒にダンジョンで戦闘射撃訓練を行っている。

ダンジョン村に残った我々は区域内の魔物を討伐したり山菜を収穫したりして糧食の不足分を賄っている。

参謀本部装備部からの糧食費は部隊拡張前の実績を基に配分されているので足りない。また、商人も王都から離れたこの場所まで運ぶのを嫌がり、結果割高となる。

残念ながらこの辺りに小麦畑に適した土地がないため、自給自足体制にもできず穀物は買い付けるしかない。


機関銃分隊員たちは機関銃を分解して手入れをしている。

可動部へ注油するのは当然、その他の金属部分も油膜が切れると錆びてしまう。

銃身に火薬ガスと削れた弾頭が残って固着しないように清浄油を含ませた布を通して拭き取って行く。

弾薬手は残弾を数えて発射弾数を記録して行く。銃身には耐用命数があるので、あとどれくらい撃てるのか把握するのが重要なのである。

その他の隊員は撃ち殼薬莢とリンクを集める。

資源が乏しく魔国からの輸入に頼る我が国では砲弾も小火器弾薬も撃ち殼薬莢は回収して後送し、再利用している。


「おーい、行くぞ」

「おう」


近くの木によじ登った隊員が銃剣で枝ごと果物を切って落とす。

下にいる隊員が果物を枝からもぎ取って籠に入れる。

こっそり皮をいて食いながら作業しているが、誰も気にしない。


今日も長閑なダンジョン村の一幕である。


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