第39話 はじめてのお出かけ【SIDE ゼン】

今日は初めての外出日だ。

色々あって予定が伸びてしまったが、今日の引率外出を終えないと自由に街を歩かせることが出来ないため、先任曹長が全員を引率して街を案内する。

ただ、ゼンはもう下士官待遇であることとミラ軍曹のバディーであることから、特例で2人だけの外出が許された。


「ふぅわぁぁぁぁぁ」


ゼンは今、銃砲店のカウンターで、まさかこの世界でお目に掛るとは思わなかったルガーP08の尺取虫機構をガチャガチャやってご満悦だ。

店員とミラ軍曹が生暖かい目を向けていることに気付かないゼンは、暫く夢中になって遊んだ後、お勧めの拳銃を店員に聞いた。

「はじめてお使いでしたら9mmパラベラムは良い選択です。お揃いでかつ戦場の使用に耐えるとなると、この辺りでしょうか」

ミラ軍曹はお勧めの拳銃を手に取るとささっと分解し

「銃身と撃針のばら売りはある?」

と店員に聞いた。

「銃身は注文生産になっておりますが、その他の部品はございます」

「じゃあ、予備部品は2セット分後で送ってくれる?」

「かしこまりました」

「パラベラムで一番上質なのは?」

「こちらでございます。お値段は倍となりますが、ミスファイアの恐れはございません」

「そう、じゃあ4箱頂戴。郵便での注文もできる?」

「はい、承ります」

「あとは、買い取りもしてる?」

「見せていただいても?」

ミラ軍曹はベルトからホルスターを外してカウンターに出した。


店員はミラ軍曹の拳銃を店の奥に持って行って暫くすると笑顔で戻り

「これでいかがでしょうか」

とミラ軍曹に紙を見せた。

ミラ軍曹が頷くと

「ではホルスター2つと皮手入れ具、予備弾倉4つをお付けいたします。装備されますか?」

「もちろん」

ミラ軍曹は真新しいホルスターをベルトに付けた。

先程分解した拳銃を組み立てると弾倉に弾を込め、装填し撃鉄を戻すとホルスターの中に入れた。

ゼンもそれを真似てホルスターに拳銃を入れた。

ミラ軍曹の身分証明で決済を終えた店員は皮手入れ具と予備弾倉、そして弾薬をゼンの方に押し出した。

ゼンはそれらを雑嚢に収納するとミラ軍曹の後を追って店を出た。

「バディー、ありがとう」

「いいってことよ。でもさっき遊んでいた銃、買わなくて良かったの?」

「あああれ、ものすごく古いものだから」

「そっか」


街は休日という事もあって人通りも多くい。

店頭の値札も正規の値段と軍人割引の値段が併記されている。

ミラ軍曹によると制服を着た軍人とその帯同者にはもれなく割引価格が適用されるとのことで、ゼンは商店街を興味深く眺めた。

確かにあちらこちらに家族連れやデート中と思われる軍人が目に入る。

元の世界では街で軍服を見ることなどなかったので、ゼンは心が浮き立つのを感じた。何といっても腰には拳銃もある。万能感が半端ないのだ。


「今日はあまり時間ないけど、今度ゆっくり街を案内しようか」

ミラ軍曹は腕時計を見るとぼそりと言った。

本当は交通機関や店舗等での支払い方法を案内するだけの時間なので、外出時間はあまり多くとってはいないのだ。

「ちょっとルガーで遊びすぎちゃったかなぁ」

「バディーが楽しかったならよかったよ」

ミラ軍曹はふっと表情を緩めた。

普段の言動や行動がアレではあるが、ミラ軍曹はもともと美少女系である。

無防備な顔を見せられれば女性不信気味なゼンでもグッとくるものがある。

「そ、それは」

ゼンは目を逸らしながら

「また案内してくれるってこと?」

「あ? いいぞ」

それって、バディーだからだよね? という言葉を

ゼンはぐっと飲み込んだ。



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