第6話 参謀本部
「
そう言って訓練担当参謀に要望書を提出すると
「年間の訓練用弾薬は配分済みなんだけどなぁ」
肥満気味の参謀が頭をガリガリと掻いた。
ただでさえストレス太りしちゃってるのに、あまり頭掻くと髪が薄くなるよ…
「どうせ戦争が起こって訓練どころじゃない部署があるでしょ。参謀本部とか参謀本部とか参謀本部とか」
「わかったわかった、付け替えるから痛いところを
「そうしていただけると」
「でも、勇者支援隊って言っても、訓練するのは実質勇者一個分隊なんだろう」
「はい」
「俺の目がおかしくなければ、この数量は一個中隊分はあるんだが」
「参謀本部付隊ならそのくらいの弾薬はあるでしょう」
「そりゃあるけどさ、使い切れるの? やだよ、後で使い切れなかったから返しますなんて」
「分かってます。作戦用弾薬と違って使用期限切れ間近なので返納されても混ぜることが出来ないんでしょう」
「そういう事」
参謀はまた頭を掻いて
「ま、いいか、手続きは俺の方でやって兵站にも話を通しておくから、明日以降弾薬庫に請求票を持っていけば受領できるよ。弾薬自体はあるからね」
「ありがとうございます。お礼はデート券か何かで」
「いらんいらん」
参謀は手をひらひらと振った。
作戦部を出て次に行ったのは情報部
入手した情報資料である略図になかった橋、橋からダンジョンへ続く道路の構造、ダンジョンの入り口の構造、ダンジョンそのものの存在意義、魔王城の概略の構造などを書面にして提出した。
代わりに情報部からはダンジョン周辺の1か月の天気概要、週間予報と危険生物の目撃否定情報をもらう。
晴天が続くので温度の上昇に注意ってところだね。
あとはダンジョンから魔物が出てきたという情報はない、か。まあ、そうだろうね。
次は兵站部の輸送課
「あ、スピアース少尉、スマン」
顔を出した途端謝られてしまった。
「この日、人員輸送に割ける車が全くない。各部長が方面軍まで指導に行くと言えばわかるだろう」
「ああ、皆さん随行されるのですね」
「そうなんだ」
「前日の装備品輸送は」
「ああ、それは大丈夫。もう命令も出してあるから」
「それなら人員の移動は何とかします」
「スマンスマン」
次は人事部の人事課
「おお、たかり姫じゃなかった眠り姫」
コイツ…ぶん殴りたい衝動に駆られたが課長は大佐殿だ。
「課長、私は部下と勇者候補たちの身上書と調査書が欲しいのですが」
「あー、必要なものは後でまとめて届けさせる。それより」
課長が近づいて来て馴れ馴れしく肩を叩く
「今夜は、わかってるよな」
「私は課長の愛人ではないですよ」
これは人事課の課員にウケた。
「礼装でサーベル付けてこいってことだ。参謀肩章も誰かから借りろ」
「私参謀じゃないです」
「そんな細かい事は誰も気にせん。いいか、お前がいるといないとでは大違いなのだからな」
「ふぅ」
そうなのだ。私が参謀本部から必要とされることがたまに起きる。
この国では貴族の子弟は兵役を免除される。
その代わり、軍の将校は貴族待遇(爵位はない)という地位が与えられている。
地位には義務が付きまとう。
マリーのような初級将校も下級貴族待遇として社交界に顔を出し、パーティーなどで軍に多額の寄付をしてくれる貴族に愛想を振りまかなければならない。
マリーはダンスパーティーの「男役」として引っ張りだこなのである。
曰く 身長がちょうどいい
曰く 笑顔が素敵で紳士的
曰く 密着しても怖くない
軍人としてそれはどうかとも思うのだが、
今夜は装備品業者を取り仕切る侯爵主催のダンスパーティーがある。
「わかりました。今夜は接待に努めます」
「頼んだぞ。ゴテゴテに着飾って来い」
「それ、ドレスで、ってことじゃないですよね」
「誰もお前に女らしさなんぞ期待しておらん」
本当にコイツ、殴っていいかな…
次は厚生課
「厚生班長、新聞どうなってます?」
「契約済みだ。朝参謀本部に届くから
「ありがとうございます」
「売店の方はどうでしょう」
「募集はかけたが、名乗りがあったのは軽食屋台が1件だな」
「そうですか」
「日用品程度なら夜間酒保を開いてやってもいいぞ」
「是非、お願いします」
「後、頼まれていたのが…健康維持用のダンベルと競技ボール各種、グローブ、バット、ベース、ネット、ライン引きにメジャーだったな」
「はい」
「明日の午後に納品になる予定だから、向こうで受けてくれよ」
「分かりました」
「あと、毎月現況調査に回るので、しっかり手入れをしておくように」
「わかりました」
続いて総務部
「部長~お願いがあって参りました~」
「おい、その気色悪い甘え声やめろ」
「ちぇっ」
「で、何の用だ?」
「機密費をちょっと、回していただけないかと」
「どこから嗅ぎつけた?」
「部長、私にも公に出来ない交際先が出来てしまったんです~」
「どこの誰だそれは」
「魔王とかダンジョンマスターとか」
「冗談でなく?」
「冗談でなく、マジで」
「おい、その鞄を見せてみろ」
総務部長に鞄を渡すと、部長は自分の机を開け、何やら取り出して鞄に入れた。
「いいか」
部長は鞄をマリーに戻し
「今日私は貴官と会っていないし、貴官も何も見なかった。いいな」
「はい」
マリーは敬礼をすると部長の部屋を退出した。
次いで衛生課
「部下と勇者候補たちの身体検査結果を頂きたいのですが」
「ごめんね、まだ全員終わってないの。終わり次第届けるから」
「有り難うございます」
「ただ教会からの情報では身体の方じゃなくて、勇者候補たちのね」
「メンタルですか?」
「そう、日に日に悪化しているという報告が上がってるのだけれど、大丈夫かしら」
いきなり召喚されて見ず知らずの国のために戦うことを強制されれば、それは仕方のない事だとは思う。
「私の方でも気を付けておきます」
そして広報課
「勇者候補ってもう広報入ってます?」
「いやぁ、一応秘密扱いだからねぇ」
「取材の可能性があったら早めに教えていただけます?」
「もちろん、それよりも」
「ん?」
「今夜はばっちり取材するからね~カメラから逃げないでよ~」
「善処します、はい…」
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