第5話  ダンジョンマスター

「えっと、初めまして」


第一印象が肝心、笑顔笑顔


「私は王国軍少尉マリー・スピアース、マリーと呼んでね」

絶対相手は50歳以上であると分かってはいても、見た目の幼さから、どうしてもため口になってしまう。


「へ、お、王国軍!」

そりゃまぁ、びっくりするよね 

「安心して、害意はないから。マーロウと協定を結んだんだけど、詳しくはあなたと詰めろと。えっと、エリスと呼んでも?」

「うん、いいけど」

落ち着け~落ち着け~と自己暗示をかけているのが分かる。

どうやらエリスは顔に出るタイプのようだ。

ツインテの美少女が表情をくるくると変えているのが可愛らしい。


「って、ま、マーロウ!?」

反応するところはそこかぁ

「うんマーロウ、魔王陛下とは仲良しだよ」

「じゃ、じゃあ、私とも仲良しになる!」

そう言ってエリスは両手をしっかりと握って来る。うーん、可愛い。

「ねえ、エリス、1つ聞いても良い?」

「なぁに?」

「アリスがさっき50年前がどうのって言ってたの気になるんだけど」

「えー」

「あ、それ聞いて馬鹿にしようとかそういうのじゃなくて、50年前ってまだ生まれてなかったから、魔王軍との停戦があったくらいしか知らないんだ」

「うーん、じゃあ、もっと親しくなったら教えてあげる」

「わかった」

さすがに自分の弱みをペラペラ話すようなお人好しではないようだ。

「本題に入るね」

「うん」

エリスは軽快なステップでソファーまで舞うように移動すると、腰掛けて足を組み、対面のソファーに座るよう促した。

足を組むという事は、まだ警戒は解いていないぞという事を意味する。

「あ、しまった」

ソファに座ってすぐ、首にかけていたペンダントに気が付いた。

「エリス、悪いんだけどさ、これ魔王城から持ち出しちゃったの。あとでこそっと返しておいてくれない?」

そう言ってペンダントを首から外し、テーブルに置くとエリスは目を丸くしていたが、すぐに弾けたように笑い出した。


笑い終わるとエリスは組んでいた足を解いて身を乗り出してきた。

抜けたところのある相手と知って警戒を解いたのだろう。

「で、本題って?」

「実は教会が勇者候補を召喚しちゃってね」

「勇者!!」

エリスがガバっと立ち上がった。

「待って、待って、落ち着いて」

「だって勇者だよ!」

「だ~か~ら、まずは話を聞きなさい」

「はーい」

エリスはソファに座り直した。

しゅんと項垂れるエリスは叱られた幼子のようでとても年上とは思えない。

「私たちはマーロウと戦う意思なんて微塵も持っていないの。教会の思惑はともかく、国としては勇者候補を勇者に育てて今我が国に戦争を吹っ掛けて来ているお馬鹿さんたちに見せつけて、自分達の愚かさを思い知らせてやるつもり」

「人間に対して使うの?」

「その通り。50年の平和で呆けた軍を蹴散らして豊かな国土を掠め取るつもりなのでしょうけど、神の使徒と民衆が信じ込んでいる勇者を目の前にして戦意を維持できるかどうかってことよ」

「ふーん」

「だから私たちは勇者候補を出来る限り早く勇者にする必要があるの。あなたにお願いしたいのはそのための訓練場の提供、それと戦後は魔国内の魔物討伐のため、通行を許可してほしいの」

「それって陛下に話が通ってるの?」

「もちろん。だからアリスが送ってくれたんだよ」

「そっか」

「うん」

「それなら私に異論はないよ。何してほしい?」

「ここで何ができるかわかったら訓練計画まとめてくるので、支援してほしい」

「お、わかってるね」

「え?」

「いきなり来て、さあ相手してって言われても手加減しようがないしね」

「あ、そういうことか」

「うん」

「じゃあ、ダンジョンで何ができるか説明してもらえるかな?」

「いいよ」

「あ、ここでの調整内容はこちらの国王陛下に報告するから、話せる範囲でね」

「うん、じゃ、ダンジョンが何階層あるかは秘密」

「うん」

「上の階層で出来るのは実弾射撃訓練で、射撃は基本射撃と戦闘射撃が訓練できるよ」

「戦闘射撃が?」

「うん、ホログラムに当たり判定付けるのに20年もかかったけどね」

エリスが上目でちらっと見る。

「わぁ、すごい。エリスって天才だね」

エリスの顔がぱあっと明るくなった。

「あと、銃でも剣でも模擬戦闘訓練ができるよ。魔物だけじゃなく、人間の各国の軍装もプログラミング、えっと、入力してあるからね」

魔王軍の仮想敵は人間だから当然だろう。

「しかし、よくそこまで出来たね」

「50年前に鹵獲ろかくしたものがあるからね」

つまり魔王軍はここで訓練を欠かしていないという事だろう。

「あ、そうするとさ」

「うん?」

「魔王軍の訓練とかち合ったりしちゃうのかな」

「その辺は調整するよ。無理なら無理って言うし。でも1週間以上前に訓練予定を出してくれるなら、出来る限り配慮する」

「計画の提出先は、入り口にいる金髪のお姉さんでいいのかな?」

「入口の見張りは交代するから、歩哨係の方に私の方から話を通して置く」

「お願いするね」

「うん」

「あと、計画を作るために、実際に訓練場を見てみたいんだけど」

「ごめん、今日全部使ってるんだ。それぞれの訓練場の図面は渡すから、それでやってくれないかな」

「わかった。無理言ってごめん」

「ちょっと待ってね」

エリスはそう言うと、隣の部屋へ行き、書類鞄を持って来た。


「これごとあげる。図面では訓練場の奥行き600mってなってるけど、前もって言ってくれれば拡張できるから」

「訓練場を使用するときに必要な勤務員は?」

「訓練場側の勤務員は全部魔王軍でもつから心配しないで。そうね、電話は敷設してあるけど通信兵だけは必要かな。あとはそちらの弾薬係とかそういうの」

「基幹要員が少ないから助かる」

「何でも困った事があったら言ってよ」

「ありがとう」

「あと、ここへはいつでも遊びに来ていいからね」

「暇なの?」

「暇だよ。部下がみんなやっちゃうから」

「じゃあ、時間が出来たらね」

「来る2日前に教えて。そうしたらシュークリンをご馳走できるから」

「シュークリン?」

「異世界出身の魔人が始めたお菓子屋さんで人気なの。予約しないと買えないのだ」

「楽しみにしてる」

「うん、じゃ、入り口に送るよ」


















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