第22話

「今日も、一緒に帰れないの?」

慌てた顔をした蒼君に、聞く。

「あ、ああ。ライブが近いからな。しばらくは学校でしか会えないかもね」

「そっか・・・・あ。でもでも!私、チケット当たったし、会場で会えるよ!」

「お互いが、確認できたらね」


秋が近づいてくると、イベントの開催数も増えてくる。

チケットはあっという間に完売。

Twitterからは、歓喜のコメントが流れてくる。


「私ね、琴葉に言ったよ。短い間の蒼君の彼女になったって」

「・・・・どんな反応してた?」

「お母さんみたいに、すごく嬉しがってた!反対されなくて良かった」

「あ。そういえば俺も伝えてなかったね」

「え、誰に?」


「・・・・・陸だよ」


「・・・・・大丈夫かなぁ」


陸君は確か、私のことが好きだったような。

蒼君が私と付き合っていることを伝えると、大体、嫌な予感がする。


「心配すんなって。陸は受け入れてくれるヤツだから」

「え!そーなの」

「っていうか、勝手に俺が巻き込んだことだし」

「じゃあ面白半分で受け入れてたってこと!?」


「・・・・・・気にしてた?」

「ちょっとは・・・・・・かな」


ちょっとではなかった気がする。


「そんじゃ俺はもう行くから」

「あの・・・・蒼君」


私は思わず、蒼君の袖を引っ張る。


「・・・・・していい?」

「結愛?」


「その・・・・『いってらっしゃい』していい?」


鼓動が馬鹿みたいに早くなる。

蒼君を送るときにいつも言ってるのに。

不思議に近づきたくなる。


「い、いいけど。できるだけ早くね」

目を丸くしながら、答えてくれる。

蒼君は優しいから。

蒼君から視線を逸らしてしまった。


「行って、らっしゃい・・・・・」


顔が熱い。

もう此処からたまらなく逃げ出したい気持ち

で溢れた。

すると、蒼君は私の手首を握る。


「行ってきます」


何も言えない。

もう死にそう。

蒼君は立ち尽くす私にとびっきりの笑顔を残して、

去っていた。



「あ、あ・・・・あ」


刺激が強い接近はこれが初めてだった。

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