第18話

「ただいま・・・・」

「おかえり結愛。今日はカレーライスだからね。待っててね」

「うん・・・・」

母からの返事に小さく呟く。


蒼君をがっかりさせてしまった

蒼君を傷つけてしまった

蒼君を泣かしてしまった


蒼君の涙で濡れた頬が夕日の光に反射して。

蒼君の小さな微笑みが輝いていた。


「蒼君のことが好きなのに・・・・・っ私・・・・」

玄関のドアを閉める。

居間の中に入ると、母が心配した顔で私を出迎えてくれた。


「結愛。何か・・・・あった?」


私は今、気付く。

頬が熱くなってきている、ということ。

目のふちに涙がこみあげてきているということ。


(・・・・やっぱり悲しいよ・・・・。蒼君)


「ママ、あのね・・・・?」


私は泣きじゃくりながら必死に伝える。

声が詰まることが辛くなるが、

一番辛いのは蒼君のことだ。

私の話を聞いた母はゆっくり頷く。


「人間関係はとても辛い事だってあるの。結愛が蒼君に思う事、蒼君が結愛に思うこと。気持ちは誰だって人それぞれなんだよ。夢より蒼君は結愛のことを好きになった。陸君はどうして好きになったか分からないけどね。結愛、考えてみて。蒼君はどんな想いで、結愛を好きになったか」


「考える・・・・?」


「そう。蒼君の様子も思い出してみて。そしてね。

結愛」


母は一回言葉を断ち切り、笑みの顔を変えた。


「蒼君の過去が関わってると思う」


母のこういうときの顔はいつもかっこいいと思う。

母は父より活発で、言いたいことはズバズバと振り回す人だ。

真剣なときもあり、女性らしい優しさも持つ母。


「・・・・分かった」

「がんばって」


私が階段を登る後に母から聞こえた言葉にまた

涙線が緩くなる。

先程に、元気を貰い、涙が引いたばかりなのに。




ノートにシャープペンを動かしていると、

手に何かが当たる。

蒼君のアクリルキーホルダーだった。

胸が痛くなって、キーホルダーから目から逸らす。


「あっ・・・・・」


「私、今、蒼君を怖がってた・・・・?」


「そんなはずないよ・・・・・」


私は蒼君に


言葉で胸を刺された


胸で熱くなる思いが零れてきた。


「また、泣いちゃうんだ。私って泣き虫だよ」


(でも蒼君のことを考えるんだ。過去が関係してるのかもしれないから)


しかし、頭の中に入っているのは、

亡くなったお母さんのことだけ。

お母さんか。


はっとする。

頭によぎった予想だった。


「私は蒼君のお母さんみたいな人だから?」


まあ、まだ分からない。

正確な判断とは言えないから。

加えれるとしたら・・・・・。


この思いは、家族が亡くなった蒼君への、

私の最初の思いだった。


「寂しい・・・・?」

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