第17話

(学校、辛い・・・・・)


校門を抜けると、私は俯いた。


足が思うように動かなくて、蒼君を見かけて、

体中がすくむ。


私は昨日、蒼君に告白された。


変わった伝え方で、更に、クラスの前で。

その後、皆が混乱し始めて。

私はその場で倒れた。


(蒼君、早く入ってくれないかな~・・・・)


校門の傍で身を隠していると、肩に手が触れる。


「わあああっ!?」

肩が上がって、思わず、飛び跳ねる。


慌てて振り返ると、私は口が開いたまま、目を見開いた。


「り、りり陸君・・・・・!?」

「あ、結愛ちゃん」


まさかの同じ学校だろうか。

陸君は鞄を背に抱えながら、首を傾げる。

驚きすぎて、頭が混乱する。


「なーに。俺が同級生のことで驚いてるの?」

「蒼君が転校してくる前にいたんだ・・・・・」

「まあうん!俺がここに通ってるから、

蒼がここに転校してきたんだよ」

「へ、へえー。初耳」


(蒼君のライバルだけど、大親友でもあるんだね・・・・ってあああ!)


私は陸君から即行に離れる。


(そうだ!陸君も確か私のことを好きだった!)


「ん?結愛ちゃん?」

「あ、ああーの、そ、そーの・・・・」

陸君と顔を合わせづらくなった私は、

風のように走り出した。


「―あの子、人並み以上に足速いな~」


肩で息を整える。

胃が悲鳴を上げて、靴を取り出した所で立ち止まってしまった。

呼吸困難になりがらも、ロッカーを開く。


「あ。蒼くーん!」

誰かが蒼君に気付いたようで、私はびっくりした。

靴が手から落ちて、慌てて拾おうと、しゃがんだ時。


ロッカーにぶつかった衝動に、上に置いてあった

掃除用具のバケツが頭に向けて、降ってくる。

ガシャンと音が響き、目を瞑る。


誰かが、バケツをキャッチしたような音が聞こえた。

ゆっくりと目を開けると、


「蒼、君・・・・」

「結愛!大丈夫!?」


蒼君がバケツを戻す。

私は蒼君の背中に、何故か、怯えた。


(お礼を言いたいのに、胸の奥がざわざわする・・・・・)


「結愛。ほら鞄」

「うん・・・・」


私は口を開こうとしたが、

結局、黙り込んでしまった。


「結愛・・・・?」

「あ・・・・えっと・・・・・」


蒼君は俯いた。

すると、私の顔を見て、察したのだろうか。

蒼君は小さく

「ごめん」と呟く。


「え」

「結愛。ここで話すのはやめよう。休み時間のときに話し合おうよ」

「う、うん・・・・・」


私達は廊下で別々に歩き出す。

その様子を目撃していた生徒達は、騒ぎ出した。

その中で、一人だけ眉を寄せている生徒が

腕を組んでいた。


授業中も未だに、蒼君の「ごめん」が耳に残る。


嬉しい言葉じゃないから、嬉しいとは感じていない。

ただ、あの言葉は何処か、

悲しいような思いも含まれているように感じる。



「結愛。屋上で話すって、急に言い出してごめんな」

「大丈夫だよ。それで蒼君、あの・・・・」


お互いに沈黙してしまう。


「俺は、結愛のことをファンだとは思わない。俺は

本当に結愛のことが好きなんだ」


蒼君は屋上に響く声で言った。


「結愛がパニック状態になることも分かる。結愛がファンの視線に傷ついていたことも知ってるんだ」


「だから俺から離れないで欲しい!俺は結愛のことを守るし、アイドルを辞めさせられても、俺は!結愛の傍にいたい!!」


蒼君の本音だと思った。

蒼君は私のことを必死に想ってくれている。

蒼君の傍にいられるなんて

幸せなことだと思う。


「蒼君の好きっていう思い、通じた」


「でも。蒼君自身の夢はどうするの?」


これが、私が不安になっていたことだ。


蒼君の夢は亡くなったお母さんがキッカケだと、

ドキュメンタリー番組で知った。

誰かを笑顔にしたくて、

お母さんみたいなアイドルになりたいって、

そして、天国にいるお母さんに幸せになってほしい。


それが蒼君の夢だ。


だからここまで、諦めずにトップメンバーとして

輝けたのだ。

そんな蒼君に私は憧れて、

学業も投げ出さずに頑張ってきた。


「蒼君が蒼君の夢を壊すことになるんだよ!」


私の言葉で、蒼君は顔を上げてくれなかった。


(言い過ぎたかな・・・・・)


「・・・・・そうだよな」

「えっ」

「俺は、ファンの為に夢を今、叶えているんだよな」


蒼君の初めて聞く、低い声だった。

蒼君は顔を上げると、涙が頬に伝っていた。


「結愛は、しっかりしてて、良い子だよ」

「え・・・・・」

「結愛。友達とかもう辞める?辛いでしょ?」

「蒼君、ちがっ・・・・・」


「俺はもう結愛に近づかないから」


蒼君はそう言葉を残すと、屋上から姿を消した。

蒼君の表情は変わらない穏やかな顔で、

優しい口調で言ってた。


だけど、言葉が痛くて。


(私、蒼君に嫌われたんだ・・・・・)


気が付けば、頬に涙が伝い落ちていた。

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