第14話

俺の夢は誰かを幸せにしたいことだった。


夢のキッカケは亡くなった母だった。

俺の亡き母は元 世界的なアイドルのセンターで、

父は世界中を駆けるピアニスト。


俺の家庭は財産を豊富に持っていて、

有名人の群がる家族構成だった。


その分、学校では浮いていた。

そんな時、いつも母と父が俺に寄り添ってくれた。


「蒼は男性ボーカリストになりたいの?」

「そうだよ母さん。俺さ、母さんみたいに輝きたくて。そして誰かを笑顔にしたいんだ」

「素敵な夢ね。母さんは蒼の夢を応援してるわ」


俺が中学生のとき、母と交わした夢の話。

だから、母さんに俺の歌を聴かせたかった。


だけど、もうできなかった。


母さんは飲酒運転の車にはねられて、この世を絶った。


もう俺には理解できなくて。

何日か数え切れないほど、俺は涙を零した。

父は今でも、俺を育ててくれている。


そして 決めたんだ。

母のようなアイドルになるんだって。

根そっこからの思いだった。


天国にいる母に届いてほしい。

俺の歌とダンスを。


どうか届いて欲しい


俺の輝いたステージを



「蒼君。おはよう!」

最近、友達になった俺のファンの

結愛が笑顔で言った。

結愛は俺の為にお弁当を作ってきてくれたり、

衣装を届けにきてくれたりと、

俺を支えてくれるファンだった。


「おはよう。結愛」


俺が挨拶を返すと、結愛の顔がかあっと赤くなった。


(なんで、俺の挨拶だけでそんなに恥ずかし

がるんだ?)


女の子って不思議だと思いつつ、

結愛と肩を並べて歩いた。

そんな結愛の顔が表情豊かで面白い。


「ー結愛は俺のことどう思ってる?」

得に意味はなく、話しかける。


「ええっ!?・・・・そ、そりゃ・・・・・!」


「好き・・・・・だよ?」


結愛は顔を赤くして、微笑んだように答えた。


(なんだ・・・・・?この胸の速い鼓動は)


胸が刺さるような気分になった。

こんな、平凡な女の子なのに。

俺のファンだけ、なのに。


何故か、結愛を可愛いと思ってしまうのは。


「あ、ああ。さんきゅ・・・・・」


(俺、最近、結愛を意識してるな・・・・・)

心の底からの思いだった。



『蒼。今日もボイトレだよ』

「ああ。分かった」


放課後。

俺は校舎の裏で陸と今日の予定を話し合っていた。

陸が突然のスケジュール確認をしたいと

言うから、二人で通話を繋いだ。


『なあ蒼』

「どうした?陸」


『俺さ。結愛ちゃん っていう人に惹かれたんだ』


陸の言葉に胸が痛くなる。


「結愛に?まだお前、初対面だろ」

『俺はそれでも好きだよ。それに』

陸は一旦、言葉を切って、低い声で声を放った。


『蒼だって意識してるんでしょ?』


また、胸が痛くなる。

今度の陸の言葉には、何も言えなくなった。


あの結愛の優しさ


あの結愛の表情の豊さ


あの結愛の笑顔


「俺は、結愛のことー・・・・・!」

『だから俺たちは、恋のライバルってことね』


恋なんて 興味なかったのに


(俺の方が結愛のことが・・・・・・!)


「負けないから」


陸にそう告げて通話を切る。


俺は結愛に恋をしているんだ













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る