第13話

「これ、蒼君の衣装じゃない!!」


私は蒼君の衣装を取り出す。

(これって、公式サイトに載ってた衣装だ!)

確か、蒼君が『明日の番組にこの衣装を着て、

皆を笑顔にするからな!』と、ツイートしていたはずだ。


(これってヤバくない・・・・・?)


とにかく、今は下校時刻なので、校舎から出る。

帰り道を歩きながら、スマホに指を置く。

事務所やスタジオ、都会の街のビルなどを確認し、

蒼君の行方を捜していた。


(これじゃ、ストーカーみたいじゃない)


だが、衣装を届ける為には知恵を得ないと、

蒼君に渡すことができない。


(新宿のレコード会社とか・・・・・)


明日の収録について、ミーティングを行っていそうだ。

ということで、ここに寄ることにした。


一般人が行っていい所ではなさそうだった。

試しに入ってみる。


「わあ・・・・」


思わず声が出た。

まさに、プロが通うような場所であり、

入った前の外とはまるで、別世界のようなものだった。


ここで見とれている場合じゃない。

私は受付カウンターに向かう。


「あの。宮崎君の知り合いなんですが、宮崎君はここにいますか?」

「宮崎さんですか?今、丁度明日の収録へ向けてミーティング中ですよ」


「そっそうですか。実は衣装を届けに来たんです」

「それでは、お荷物はこちらで受け取ります」

「い、いやあの、自分で渡しますので、大丈夫です」

「了解しました」

私は受付の人に頭を下げて、エレベーターに向かう。



(それにしても、すれ違う人は有名人ばかりだったなあ・・・・・)


中に入るまで、大人気のボーカリストや話題のアイドルグループにすれ違った。

皆、きらきら光っていて、

目を向けると死にそうな程、輝いていた。


「蒼君が羨ましい・・・・・」


そう呟いて、袋の中に入っている蒼君の衣装を抱えた。特別感がある。

エレベーターから音が鳴り、開かれたドアから歩き出す。

4階の何処かに蒼君がいるはず。



ドアの中やマップを調べて居場所を探した。

私は残された部屋のドアノブを引く。

ちゃんとノックをしてから入った。


ドアを開くと、きょとんとした皆の顔が目に映った。

マネージャーの人が「どうしましたか?」

と声を掛ける。


「あの、宮崎君に衣装を届けに来ました」


震える声で言った。

蒼君ははっとして「結愛っ!」と振り返った。


「まあ!ありがとうございます!」

「結愛。わざわざごめん」

「ううん」


私はマネージャーさんに衣装を届ける。

立ち上がった蒼君は私に礼を申し上げた。


すると、他のメンバーたちが蒼君に声を掛ける。


「おい、蒼。この子と知り合いかよ。」

メンバーカラーが赤色で、明るい性格を

したイケメン優坂陸ゆうざかりく君だ。


蒼君とは良きライバルであり、

5人の中のトップメンバーの一人でもある。


「友達だし。」

蒼君はそう返す。


「結愛ちゃんっていうのー?可愛いね!」

陸君の隙間から顔を出した男の子が言う。


こちらは、メンバーカラーが黄色の、

可愛らしく優しい、神谷愁斗かみたにしゅうと君だ。

小動物のような愛らしいメンバーである。


他にも、

メンバーカラーが緑色の真面目な佐藤和真さとうかずま君や

メンバーカラーが紫で、クールな鈴川千尋すずかわちひろ君がいる。


「ありがと。マジで助かった!」

「それじゃ、私。帰るね」


私は蒼君に小さく手を振り、ドアを開く。

最後に「失礼しました」と頭を下げて、

出て行った。



「はあ。よかった。届けられて」

私はビルを出て、外の息を吸う。

夏の夕方の景色がぼんやり見える。


「がんばって。蒼君」

私は一言を呟いて、歩き出した。









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