第10話

「これ、夢野さんの弁当だよね?」


蒼君の真剣な顔が恐ろしく見えてくる。


(ば、ばれた・・・・・!)


「い、いや違うんじゃない?他の人の

じゃないかなー?あはは・・・・」

「夢野さん」


誤魔化す事は不可能な状態だった。

蒼君にばれたくなくて、

あまり、怪しい行動はしていなかったはずだ。

多分、違和感は無いと思う。


「あぁー・・・・えっと、その・・・・・」


ただ、困惑したって何の解決にもならない。


「ごめん。その、お弁当箱は私が

宮崎君にあげたの・・・・」


空気が冷たくて、心臓の鼓動の音しか聞こえなかった。

蒼君はその言葉を聞いて、首をぽりぽりとかく。

蒼君の目線が地面に移り変わる。


「夢野さんのお弁当、美味しかったよ」


蒼君の言葉が胸に響いた。


(怒ってないの・・・・?)


蒼君は笑顔を向けながら、私を見つめた。

その笑顔は花のようにふわっとした笑みだった。


「宮崎君、何で私が作ったお弁当だって

分かったの!?」

「夢野さんの鞄からチラリと見えて、把握した」


私に向けたあの笑顔は・・・・・・。


「お見通しだったんだ・・・・・・」

「そういうこと」

蒼君は苦笑する。


「それに夢野さんってもしかして俺のファンなの?」


蒼君はふいに首を傾げる。


「え・・・・え、ええっと・・・・・・」


本人の前で言いづらいが。

もう、この際、カミングアウトしてしまおうか。


「私・・・・は、蒼君のだ、大ファンだよ!」


世界が終わりそうな気分だ。

蒼君はこういうの迷惑だろうな・・・・・。


(死にたい・・・・・・)


しかし、蒼君は、頬をぱあっと明るくした。


「嬉しいな!夢野さんって俺のファンだったんだ!」

「え・・・・、迷惑じゃないの?」

「まさか。夢野さんに言われて俺は嬉しいから!」


蒼君は基本、ファンに対して優しい人だ。

誰かの為に努力して、ファンを笑顔にしたい、だから蒼君は、アイドルになった。

その気持ちが今、伝わってきて、胸がじーんとする。


「俺は夢野さんをこれから、結愛って呼びたい」


「えっええええ!!」

呼び捨てはもう、嬉しいっていうか

もう何か・・・・。

「い、いくらファンと同じ学校だからって

無理があるから!」

「嫌なの?」


蒼君の輝く瞳を直視できない。

もし、そうなったら、他のファン達からの視線がもっと痛くなる。


「これは 強制 だから」

「へ?」

「そして、俺を蒼君って呼んでほしい」

「蒼君!顔!顔!近い!!」


突然の要求に手を握り締められる。

そして、綺麗なお顔がとても近く見える。

恐ろしいくらいに。


(あはは・・・・。どうしよう)
















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