第9話

(今日はいよいよ お弁当の日 か・・・・・・)

プール上がりの疲れた気分に満たされる。

私は鞄のチャックをゆっくり開く。


あるものを見つけて私は自分に呆れてしまった。

青色の巾着袋にきちんと包まれた弁当箱に。


(これを蒼君の机に入れて食べてもらうんだ・・・・)


「夢野さん」

「わああ!?」

後ろから肩を叩かれてびっくりする。

あわてて振り返ると、蒼君が輝いた笑顔を向けた。


今、思えば推しに肩を叩かれるって、貴重なことだ。

だから、蒼君との対応はいつも難しくもある。


「お、おはよ、宮崎君」

「おはよう」


(こんなお弁当、蒼君はどんな

反応するんだろ・・・・・・)


3時間目の体育が終わって、私は一足先に教室に、着いていた。机に向かう。

中から巾着袋を持ってサッと蒼君の机に突っ込んだ。


入れた後に、変に怪しまれるので、

私はトイレに行く振りをした。



皆の視線が蒼君の持つ弁当箱に向けられた。

「これ、誰のだろう」

間接的なアピールをしているのに、蒼君は全く気付いてくれない。ファン達の顔が一気に歪む。

蒼君にはもう一つの弁当箱がある。


だけどこの弁当箱は、見覚えが無い、誰かの物ではないかと、どうやら勘違いしているみたいだった。


「まあさー、食べればいいんじゃね?」

一人の男子が言った。


(こんなことして悪いと思ってるけど、

本当は蒼君に食べてほしいの!)


蒼君は小さく頷いて巾着袋の紐を解いてくれた。


そして、蒼君はゆっくりと、弁当箱を開ける。


その瞬間、蒼君は嬉しそうに小さな笑みを浮かべた。


中には蒼君の好物のグラタンが盛り付けられていた。


(喜んでくれた・・・・・・)

蒼君の好物は公式サイトのプロフィールで確認した。

チーズがたっぷりなグラタンが好きだとかかれていたので、母に手伝ってもらって美味しそうなグラタンが作れた。


蒼君のイケメンすぎる笑顔が尊い。


好きなものに喜んでくれる蒼君はかっこいい。


蒼君は一瞬だけ私の顔を見つめる。


そしたらまた笑顔になってくれた。

(よかった・・・・・・)

内心ほっとした。



放課後の教室から出て、琴葉と帰ろうと玄関のドアを開く。

「やっと来たー!結愛ー!」 

「ごめーん」

琴葉は座っていたベンチから立ち上がった。

すると、どこかから、誰かが待っていたかのように、花壇の前に立っていた。


「宮崎君!」


蒼君が立っていた。

(一体、どうしたのかな・・・・・・)


すると、蒼君はいきなり私の手を引いた。


「わっ!ちょっと宮崎君!?」

琴葉は手を振って勝手に帰って行った。

「二人で話したい事があるんだ」

何故か、蒼君は真剣な顔をしている。


(・・・・・な、なんだろう)


私は蒼君に手を引かれるまま、校舎裏へ連れて行かれた。蒼君は持ち手の鞄から何かを取り出す。

私は蒼君が手に取っている物を見てはっとした。


「そ、それ・・・・」

私が蒼君にあげた弁当箱だった。

蒼君はため息をつく。


(お、怒ってる・・・・・!?)


「これ」

嗚呼。


「夢野さんの弁当箱だよね?」


これは非常に不味い展開だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る