第8話

「夢野さん、寝ぐせついてるよ」

「ふえっ!?」


蒼君に髪を指される。

今日は朝早く起きれなくて、髪にブラシをかけるのがめんどくさくなり、ギリギリの時間で恐怖のチャイムから逃れられたのだが。

(流石に雑にやりすぎたかな・・・・・)


私は最推しの蒼君に苦笑いの表情を向ける。


宮崎蒼君は『ダイヤモンド』のトップメンバー。

私の推しである蒼君が、何故か転校してきて、私の隣の席になるという奇跡が起きた。

さらに蒼君に気に入られて昨日は一緒に帰ってくれた。


自己紹介の時とか、予想以上の冷たさでガッカリしたが、私には優しい一面を見せてくれるから、嫌いではない。

ツンとした要素もあって、もっと私は蒼君のことを好きになった。


そんなことを昨晩、母に打ち明けたところ。


蒼君にお弁当を作ってあげるのはどうか、

とレベルの高い提案された。


(ど、どうしよ・・・・・)

とにかく やってみよう と決断を果たしたが、

やる前から不安でたまらない。

(うーん、でもなぁ・・・・・)


私が混乱していると、

朝読書の時間を合図するチャイムが再度、鳴った。

机から一冊の本を取り出し、しおりで挟んであるページを開く。

この本は私の憧れの恋愛を描いた小説だ。


青春系の恋愛ストーリーでシンプルなのに甘酸っぱい恋が特徴だ。


私は何となく、チラリと隣を見る。

意味は無い。

ただ、見たかっただけだ。


(・・・・あ。蒼君、ミステリー小説、読んでる)


確か、一時期、流行していた小説だ。

かの有名なミステリー作家の人がこの本で賞を取ったっていう話題があった。


(ミステリー系、好きなのかな・・・・)


私は本から半分、顔を覗かして、蒼君を見つめた。

そろそろ、蒼君に気づかれそうになったので、

あわてて本に顔を戻す。


「・・・・・・」


まだファンとして、知らない一面を探るべきだと、私は思った。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る