第6話

蒼君が私を気に入ってくれた。

出会ったばかりなのに。

優しいあの顔が頭に蘇る。


「夢野さん。ここの問いを答えて」

はっと我に返る。

あ・・・・。

そういえば今、授業中だった。

私が一番苦手な数学の〈式の展開と因数分〉である。


「えっ、えっと・・・・」

私は慌てて椅子から立ち上がる。

クラス中が答えを待っている。

すっかり、話しを聞き忘れていた私の頭の中はパニック状態だ。

(わ、分からない・・・・・!)


「答え・・・・は、=3x²+2a²+9です」

クラス中がクスクスと笑う。


ー+8なのに!ー

ー固まりながら言ってる!アホらし!ー

ー可哀想・・・・・ー


目のふちがどんどん熱くなる。

頬が熱くて今にも私は泣きそうだった。

隣の蒼君はきょとんとしている。

恥ずかしい。

蒼君の前で。


すると蒼君が口を開く。

自分に何か言われそうで、私は思わず目をつぶった。


「夢野さんのことを笑うなよ」


蒼君は冷静にクラスを静まり返させた。

(え・・・・・)


「答えを間違える事くらい、あるだろ」


私をからかっていた人達は顔色を失っている。

何も言えなくなって少し、悔しがっていた。

蒼君は最後に失礼いたしましたと頭を下げて、教科書に首を突っ込んだ。


またもや、ファン達からの鋭い視線が向けられる。

蒼君が私の味方になったことを気に食わないらしい。


(でも・・・・・)


あの時の蒼君はとてもかっこよかった。

やっぱり好きだ。

蒼君のこと。


「やっと教室掃除が終わった」

放課後の教室掃除を私は一人で手伝っていた。

今日は掃除が無い日だが、

先生が急用を出してしまい、私に頼み込んだ。


机に掛けている鞄を手に取ると、私は教室から出た。

ドアを開けると、誰かが張り付いていた。


「みっ宮崎君!?」


蒼君は私に気が付いた。

「ど、どうして此処に・・・・・」

ただただ驚くばかりである。


「帰る人が居なかっただけ」

「つまり私と帰りたいってこと・・・・?」


蒼君は小さく頷く。


(ふええええ!?推し・・・・と帰れるっ・・・・!?)

これは念願の。

放課後ではないか。


「うっうん!一緒に帰ろう!」


この恋は進展しているはずっ・・・・・!

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