五本の野花

「サンダー!」

「グゴオオオオオオ!!?」


 指を変化させ、イノシシ型の魔物に電撃を無詠唱で浴びせた。

 軽自動車並みはある巨体。

 だというのに、俺は一撃でその魔物を撃沈。

 トドメとして首を剣で刎ねてやった。


「……」


 無言で剣に着いた血を振り払う。

 俺の身長ぐらいはある大剣……いや、違うか。

 少し大きめのサイズ程度なんだが、俺がまだ子供だからそう感じるだけか。


「(……やっぱり、この指を出している間は罪悪感が薄いな)」


 剣を背中に背負ってその場を去る。

 魔物狩りをしているところを大人たちに見られたら面倒だ。

 ということで俺はこの場から逃げることにした。

 

 走る。

 自分でも驚く程のスピードで。

 どうやら、この指を出している間は、魔力だけじゃなくて体力とかも引き上げられるらしい。

 本当に便利な機能だ。特に精神力も上げてくれるのが助かる。戦闘中でビビったらそれだけで死ぬからな。

 とまあ、そんなことを考えてると、魔物が出るスポットである『魔境』から抜け出したので、俺は減速しながら指を戻した。


 魔境。

 魔力や瘴気などが一定数を超えて満ちている特殊な地帯。

 森林、砂漠、河川、廃村、様々な環境の魔境が存在している。

 では、どういった原因で魔境が誕生するのか。何故魔境にだけ魔力が満ちているのか。その原因は不明である。

 何故、海は水に満たされているのかと聞いているようなもので、この世界ではそういうものだと認識されている。

 魔力の存在しない世界を知っている俺にとっては納得出来ない答えだがコレがこの世界の常識なのだ。受け入れるしかない。



 そもそも、魔力と言うエネルギー自体よく分かってない。


 ある国は神からの祝福の一種だと、またある国では霊的な器官から生み出されるエネルギー、またまたある国では大気に満ちる星の力だと認識している。

 どれが正しいのかは未だに答えが出ておらず、出たとしてもソレが真実であると確かめる手段は存在しない。

 というか、そんなことを知らずともエネルギーとしての運用法は魔法として成立しているから誰も知ろうとしないのだ。

 安全な使い方が確立しているとしても、未知の力を使うのは少し怖いが、今更辞める事なんて出来ない。

 現代日本の人間が環境を破壊するとしても科学技術なしの原始時代に戻るのが不可能なように、この世界の人間は魔法無しの生活に戻るなんて無理だ。

 俺も手にしたこの力を放棄するつもりはない。たとえ危険性があるとしても、魔法を辞めるつもりはない。

 この力で僕から俺になるためにに……。


「あ、あの時の王子さまだ~!」

「ん?」


 ふと、声がしたので振り向く。

 そこには昨日助けた女の子二人がいた。

 赤の混じった茶髪の姉らしい子に、赤が混じった黄色の髪の幼女。

 まだ子供だから色気はないが、将来は美人になると分かる程に顔は整っている。

 しかし、この辺の村は寂れている。だから服はかなり質素で汚れも所々目立つ。

 そのせいでやぼったい印象を受けてしまい、可愛い事に気付くのに少し時間を取られてしまった。


「なんだお前ら?」


 俺はわざと不遜な態度で応える。

 七歳児とはいえ俺も貴族。平民に対して馴れ馴れしい態度を取るのは不味い。

 俺自身こういった態度は好きでは荷が、ソレがこの世界の常識だ。郷に入っては郷に従う。


「あ、あの…あの時はありがとうございました!」

「ありがとう王子さま! これ、お礼です!」


 そう言って、少女は俺に花を渡した。

 全部で五本。おそらく野花なんだろう。

 平民の子、しかもあんな寂れた農村の子供だ。花屋で買えるわけがない。

 けど、何でだろうか。俺はソレが誕生会で貰った高そうな花束よりも魅力的に見えた。


「あ……礼を言う」


 ついありがとうと言ってしまいそうになるが、グッと我慢して貴族っぽく受けとる。

 しかし花か。女の子からのプレゼントはうれしいが、男の俺が貰っても仕方ないぞ。

 さて、どうするか…。


「あ、あの! 私、フィオーレって言います! あ、貴方は!?」

「私フィーナ!それであなたのお名前はなんていうの?」

「……アルコ・オルキヌス」


 俺は自己紹介と同時に、貰った花のうちの二本を彼女達に差し出した。

 フィオーレには黄色の花を、フィーナには赤い花を。それぞれ彼女たちの髪に茎をかんざしのように刺す。


「これはお前らの方が相応しい」


 五本もいらん。渡す相手がいないからな。


「「……」」


 ボ~とする二人。やべ、ちょっとカッコつけすぎたか?

 じゃあ、何か言われる前に逃げるか


「じゃ、じゃあ俺は帰るからな!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る