絵本を読んでやる


「おにいさまおにいさま! これ読んで!」


 風呂から上がって部屋に向かっていると、妹のドルフィが笑顔で絵本を俺に渡してきた。

 どうやら寝る前にコレを読んで欲しいようである。


 本来なら使用人の役目なのだが、妹と信頼関係を築く為にやっていたら、いつの間にか俺の役目に固定されてしまった。

 気を使って代ろうとしてくれる使用人もいるのだが、ドルフィはソレを嫌がるんだ。

 よって俺は仲良く成れた今でも続けている。


「お休み前の読み聞かせか? ああ、いいよ」


 絵本を受け取ってドルフィの部屋に入る。

 俺の部屋同様、無駄に広い。

 違いといえば、洋服や玩具とか子供らしいものが置いてあるぐらい。

 後は、女の子らしくカーテンやベッドのデザインがファンシーなところか。


「早く早く!」

「分かった分かった。そんなに急ぐな。寝られないぞ?」


 ドルフィがベッドに潜り込むのに続いて、俺もベッドに腰掛ける。

 そして、俺は妹の頭をポンッと優しくなでながら、絵本を開いた。


「それじゃあ読むぞ。昔々…」


 こうして俺は朗読を開始した。


 絵本の内容はこの国の英雄譚である二人の勇者

 龍の力を宿す英雄が世界を征服しようとする悪魔を倒す話だ。

 ストーリは前世でもよく見かけた王道な剣と魔法の物語だが、ファンタジーなこの世界では実話とされている。


 絵本だから子供に分かりやすいように編集されているが、実はこの大陸にかつて存在していた大国の建国記である。

 大昔、この大陸には小国が幾つもあり、戦争や災害が絶えず、そして魔物等の脅威に脅かされていた。

 それらの脅威を退けて大国を築いたのが龍の力を持つ二人の勇者である。

 まあ、その大国も昔に滅んで我が国と複数の国に分割してしまったけど。


「ねえお兄さま、龍の勇者さまって本当にいたのかな?」

「ん? いたんじゃないか? 今でも祝福“グローリー”を持つ祝福使い“グローリア”はいると聞くし」


 祝福“グローリー”。

 神からの祝福と呼ばれる特殊な能力の総称。

 ほんの僅かな人間のみに与えられ、魔法以上に貴重かつ強力である。

 二人の勇者はその中でも特に強い祝福、対極龍の力だったといわれている。


「(大方、俺のこれも祝福なんだろうな)」


 そう、これが俺の心当たりだ。

 原作にはない設定なのであまり意識はしていなかったのだが、まさか俺が祝福を受けるとは。

 けど、考えてみれば当然の事だ。だって俺は神に会って文字通り祝福を受け取ったのだから。


「(しかし、俺のグローリーは何だろうな?)」


 あの時、俺はドラゴンライダーになれるような特典をお願いしたのだが、この指がそうなのか?


「お兄さま、早く続き呼んで!」

「ん? ああ、ごめん。じゃあ読むね」


 続きを読んで数分後、ドルフィは寝てしまった。

 あ~あ、今日も途中で寝落ちしちゃったか……。

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