紫色の指


「「「………」」」


 ゴブリンと少女の間に突如割り込んできた乱入者に、その場にいた全員が固まった。


 若いを通り越してまだ幼い外見。

 着用している衣服と仕草からして高貴な身分と推測出来る。

 以上のことから、通常ならば彼を『育ちの良さそうな坊ちゃん』と予測するだろう。


 しかし、この場にいる者は誰一人彼をただの子供と扱っていない。


 目の前で焼け焦げているゴブリンの死体。

 これを作ったのがこの育ちの良さそうな坊ちゃんなのだから。



「(間に合ってよかった……)」


 育ちの良さそうな坊ちゃん―――アルコは内心安堵のため息を付いた。

 良かった、助けられた。

 見ず知らずの少女たちに優しい視線を向け、少しだけ微笑む。


「立てるか? 立てるなら早く逃げて」

「……え? あ、はい!」


 現実感がないせいか、少し呆けながら答える少女。

 しかし現状を思い出し、慌てた様子で妹の手を引っ張って村へと一目散に走った。


「ありがとー王子さま~!」

「ダメ! 今は早く逃げないと」


 アルコは後ろから声援を送る少女を温かい視線で見送った。

 そのあと、すぐに目線を敵に向け、険しい顔で戦略を立てる。


「(相手は小鬼(ゴブリン)。全部で8体。武器はこん棒か刃こぼれしたナイフ。距離は一番近い奴で5m、遠い奴で十mか。なら……!)」


 先制攻撃。

 呪文を唱えることなく雷を放つ。

 電撃は逸れることなくゴブリンの一体に命中。

 その衝撃でダメージを負い、感電して絶命した。


「ぎ…ギぃ!」


 仲間が一人殺されてゴブリンたちはやっと膠着から立ち直った。


 このガキは仲間を殺した。

 このガキは戦う力を持っている。

 このガキは自分たちに武器を向けている!


 なら敵だ! 敵は皆殺しだ! 女子供でも殺す!


「ギィギィギィ!」


 ゴブリンたちは吠えた。


 何故あのガキが攻撃したのか、あのガキが何者なのか、どうやって仲間を殺したのか。

 そんなことはどうでもいい!


「ギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィぃ!!!」


 彼らは雄たけびを上げながらアルコに突撃する。

 ただ眼前の敵を殺すために!


「怒ったのか? いいぜ、来いよ。……全員ぶっ殺してやる」


 再び雷を手に宿し、迫り来るゴブリンを燃やす。

 今回は両手。

 左右同時に雷を放ち、ゴブリンを殺した。


「く…クハハハ……」


 雷を放つ。

 放つ放つ放つ。

 向かってくるゴブリンを焼き払う。


「アハハ、ハハハハハ!」


 笑いながら。

 アルコは楽しみながら雷を放つ。

 まるで肉食獣が獲物を刈り取るかのような笑顔で。


「ギィ~~~~!」


 接近したゴブリンが殴り掛かる。

 アルコ目掛けて飛び掛かり、こん棒を掲げ、今まさに振り下ろそうとしていた。

 ここまで接近されたら普通ならアルコの負けだが、彼は無詠唱で魔法を放てる。

 すぐさま電撃でぶっ殺せるのだが、アルコは敢えて接近し、ゴブリン目掛け人差し指と中指で喉を刺突した。


「ぐべぇ!!?」


 ズブリと、深く突き刺さるアルコの二本指。

 ゴブリンの口から汚いぐぐもった声が漏れ、アルコはソレを聞いて口元を歪ませた。


「死ね」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 ビリビリビリィ!

 ゴブリンの体内から迸る紫の電流。

 直接体内に落雷したかのような威力の電撃が、ゴブリンの肉体を蹂躙。

 一瞬で意識を刈り取り、数秒も経たずに絶命。そして数秒後に文字通り消し炭に変えた。


「………ん? まだいやがるのか」


 山の方に注意を向けると、別のゴブリン達が向かってくるのが見えた。

 おそらく、先程倒した奴らの群れの残りであろう。

 正確な数は遠くて分からないが、先程より多い。

 だが、問題はない。


 アルコは慌てることなく、指を敵に向ける。

 右手の人差し指と中指の、異様に長い爪。

 その爪先から電流が生じ、変化が起きた。


 右の人差し指と中指が合体し、一本の指となったのだ。

 柔らかそうな幼子の指ではなく、二倍程拡大された指。

 毒々しい紫色に変色し、爪はより長くなっている。


「正しき雷よ 我が指に宿り 収束し 倍増し 敵を射貫け ガンサンダー!」


 銃口のように向けられた異形の爪先から、電撃が放たれた。

 弾丸でも撃つかのように放出された雷光。

 其れは真っすぐゴブリン共の集団に命中。

 全方向へ一気にに拡がって電撃を拡散し、範囲内にいるゴブリンを殲滅した。


「「「ぎぎゃああああああああああああああああ!!!」」」


 ビリビリビリ!

 空気を割く音と、ゴブリンの悲鳴が森に響き渡る。

 連なって、血や肉が焼ける匂いが当たりに充満した。

 


「アッハッハッハッハ! アッハッハッハッハ!」


 死を連想させる声と匂い。

 アルコはそれらを堪能しながら、瞳を紫色に光らせて高笑いしている。

 その姿は、先程彼が救った少女たちの言う王子さまや貴族とは大きくかけ離れていた。

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