王子さま
森の中、少女は走る。
妹の手を引いて。
背後の化け物たちから逃れるために。
その日、突如化け物が襲った。
早朝に向かった、いつもならば小鳥が囀る静かな森。
静寂は血と暴力で汚された。
その村娘は命の危機を迎えていた。
いや、娘どころか少女と言ってもよい程の年齢。
そんな幼い子供が理不尽な暴力に命の危機へ晒されているのである。
彼女は走る。
血塗れの武器を振り回す化け物から逃れるために。
彼女の両親は、化け物の囮になって森の奥へと向かった。
自分の娘達を逃がすために。
彼女はそんな両親の無事を祈って無我夢中に走る。
足音が増えた。
振り返る余裕なんてない。
ひたすら走る。
下卑た笑みが聞こえた。
振り返る余裕なんてない。
ひたすら走る。
むせ返るような生臭い匂いがした。
振り返る余裕なんてない。
ひたすら走る!
走る。走る。走る。
ただ前を向いて走る。
後ろから追ってくる化け物が増えようが、何かを食おうが走る。
振り返る余裕なんてない。
もし捕まれば、次は自分の番なのだから………。
「もう少しよサラ! 森の外が見えたわ!」
「うん!」
二人の先に希望の光が見えた。
森の先にある平野。
あそこまで逃げれば、少しで村に帰れる。
村には大人達がいる。
そこまでいけばきっと助かる!
「キャッ………」
不意に何かが足を貫通し、少女は倒れ込む。
何かなんてどうでもいい。
彼女は確認する間も惜しんで妹を逃がそうとする。
「サラ、逃げて…」
激痛に耐えながら、そう言葉を残す。
しかし、もっと幼い少女は、その言葉とは逆に、自身の姉を助けようとする。
「」
少女と幼い少女へと化け物―――ゴブリンはこん棒を振りかざす。
少女は目を閉じる。
下唇を噛みしめ、自身の力の無さを嘆きながら。
もしこうなることが分かっていれば。
こんな最後は遂げなかっただろう、と。
少女は力が無かった。
少女も理解していた。この後の結末を。
自分は死ぬ。
血塗られた凶器が少女へと振り落とされ―――
「サンダー!』」
落とされることはなかった。
少女は瞼を開く。
ゆっくりと、恐る恐ると。
そして驚く。
少女を殺そうとしていた小鬼は、紫電に焼かれていた。
その突然の超常的存在の介入に戸惑い、また彼等の放つオーラに圧倒され、動けずにいた。
「呪文を短縮させてこの威力か」
少女たちの鼓膜に幼い声が響いた。
「やっぱり、この爪は魔力を増幅させるのか」
質の良い服装。
動作も年にしては気品のある仕草。
一言で表すならば、『いいとこのお坊ちゃん』といった印象だ。
「それじゃあ、暴れるか」
いいとこの坊ちゃん―――アルコは雷を右人差し指に宿しながら獰猛な笑みを浮かべた。
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