お友達と薬草採取
「おはようアティレス」
「あ、アルコ!?」」
いつも遊び場にしている大きな樹の下。
俺が姿を見せるとアティレスは笑顔を見せた。
「おはようアルコ! 今日はお稽古ないのね!
「今日は一日中休むように言われたんだ。だから今日はずっと遊べるよ」
妹と遊ぶ時間までねと付け足す。
まだ妹に合わせる準備が出来てないからね。
「うん!」
こうして俺とアティレスは遊びに行くことになった。
「今日は何して遊ぶ、アルコ!」
明るい様子でアティレスは聞く。
この三日間、一緒に遊ぶことでアティレスは随分話すようになってくれた。
以前はオドオドとした雰囲気だったのだが、今は陽気で元気はつらつだ。
垂れていたエルフ耳はピーンと真っすぐに、尻尾のようにパタパタ動かしている。
良い変化である。
俺もご機嫌を伺うような子より、こうして元気な様子で楽しく遊んでくれる方がいい。
そして何よりも、今の方が可愛い。
シュンとした小動物のようなアティレスも良かったが、今のアティレスが一番可愛い。
前世の『僕』が買っていた犬も元気な時が一番可愛かったからな!
「それじゃあ薬草を探そうか!」
「うん!」
今日は薬草探しだ。
アティレスの一族は薬草や珍しい植物を採取し、薬やらスパイスやらに調合して売る移動民族だという。
当然、その一員であるアティレスも植物に詳しい。少なくとも引きこもって修行ばかりしている俺よりも断然には。
「それじゃあどっちが多く取れるか勝負だよ! ちゃんと薬草は覚えているよね!」
「もちろんだ! これでも俺は家では天才っ子で通ってるんだからな」
今までどの薬草がどんな効果があるのかは教えてもらった。
とはいっても、ソレはアティレスが知るうちほんの僅かな量だろう。
教える機会が無かったり、見てないせいで説明出来なかった薬草も多々あるはずだ。
だったら適当に取れるだけ取ればいい。
ソレで薬草だったら御の字。知らない物は効能を新たに説明してもらおう。
外れだったっら仕方ない。無駄に取り過ぎると怒られるが、甘んじて受けよう。
「それじゃ行くよ!」
「ああ!」
こうして俺たちは薬草を集め始めた。
@
大量に集まった草たち。
ソレを眺めながらアティレスはため息を付いた。
「ねえ、アルコって軍人か何かなの? 何でこんなに取って持って来れたの?」
「これでも軍人上がりの貴族だからね。力はある方だ」
「そんなレベルじゃないよ!」
アティレスは薬草?の山に手を突っ込む。
「コレ、アルコの身体の大きさの三倍あるよね! なんでこんなの」
「これぐらい平気だよ。師匠が用意する修行に比べたらね」
自分の体重を超える重りやら、魔力の流れを邪魔する道具やらを付けて剣を振るときだってあるのだ。
たかが草の山ぐらいどうってことはない。
「というか、コレ毒の実じゃない。ダメよ、こんなの持っていったら」
そう言ってアティレスが取り出したのは俺が必死で取った木の実。
かなり登り辛い木から取ってきたものなのでちょっとショックだ。
「え、そうなの? 前教えてもらったのと似てると思うんだけど……」
「これはボンム。別名猛毒リンゴっていうとても危険な実よ。果汁にちょっと触るだけでも皮膚が焼けちゃって、実を食べると内臓が溶けちゃう危険な実よ」
「そんなにヤバいの!?」
俺は急いで実に触った手を拭いた。
なんて危ない木の実が生息しているんだこの森は!?
「ハァ~。ホントすごいよアルコは。将来は本当に龍騎士になれるかもね」
「……」
「アルコ?」
「……実は」
俺は三日前の出来事、アティレスに会う前の出来事を話した。
あの日から、俺は剣をマトモに触れなくなった事。剣の稽古でも上の空になってしまうようになった事。そして本当に龍騎士になれるか不安になったこと。
ゴブリンを倒すことを躊躇した瞬間から、俺は龍騎士に成れる自信が無くなってしまった……。
「ソレって当たり前のことじゃない?」
「………え?」
けど、帰ってきた答えは俺の予想を超えるものであった。
「アルコは優しいもん。理由がなかったら殺すことなんて出来ないよ」
「け…けど相手は魔物だぞ! 魔物って、ただ倒される雑魚キャラなのに……」
「そんなことアルコは考えないよ。私を助けてくえたアルコだったら」
「私は亜人なのにアルコは助けてくれた。そんなアルコが魔物だからって何もしてないのに殺すわけがないじゃない」
「そんなこと言うなんてアルコらしくない。優しいアルコだったらそんなこと言わない筈だよ」
「だから気にしないで。本当に戦う時は、アルコは戦えるだから」
「無理しないで。何かあったらアルコの力になるから」
「………ごめん、もう時間だ。妹が待ってる」
そういわれて俺は何も言えず、逃げるように走って帰った。
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