何も変わってない


「……」


 まだ日の昇ってない。俺は林の近くで剣を振るっていた。


 魔力を何度も行っているおかげか、俺は七歳児はありえない身体能力をしていた。

 大人ぐらいのスピードで走ったり、懸垂軽々としたりと。俺の身体能力はおかしなぐらいに成長していった。

 だから剣を振るなど当たり前。俺の今の体に合うサイズの木刀を作って振るうことで剣の腕前を身に着けていた。


 対戦相手がいないからアレだが、自分ではこの動きを大分物にしてきていると思う。

 師匠を仮想敵に設定して攻防を重ねる。所詮は7歳児。いくら強いといっても背丈などの問題で攻撃は当たりもしない。


「……仕方ない。魔力強化」


 俺は魔力によって身体を強化。武器も大人用の剣に持ち替えた。

 途端に俺の動きが格段に上がる。鉄の塊を振るっているというのに、それよりも軽い木を持っていた時よりも大分早く動けた。

 パワーも格段に上がり、武器も鉄になったことで威力も大分上がっている。おかげで数分ほどで勝てるようになった。

 このように魔法を使えば勝てる。最初は全く勝てることが出来なかったが、今では何度か勝てるようになった。


「……よし、鉄の武器も大分慣れた」


 鉄の武器は子供用のサイズがない。だから渋々これを選んだのだが、最初は身体強化で振るってもバランスが取れなくて苦戦した。

 だが俺は克服してみせた。何百回も剣を振るうことで、何千回も努力することでこの鉄の塊を俺の剣にしてみせたのだ。

 もちろん、七歳児が大人用の剣なんて振り回せない。魔力によって筋力強化している。


 最初はもう散々だった。

 魔力を体に流して操作しながら、剣を自在に振るう。

 二つのことを同時に出来ずに何度もこんがらがった。

 だが、何度も練習して俺は両立して使えるようになった。


 これで俺の戦闘力は格段に上がった。師匠より強いとは言わなくても大人以上の戦力を発揮出来るようになっている。


 しかしこれは所詮イメージ。本当にその通りとは限らない。

 それに使用は大分加減している。それに動きも同じものばかりなので対策は可能なのだ。

 簡単に言えば情報不足。これ以上のシミュレーションを行いたければもっと師匠の動きを引き出さなくてはいけないのだ。


 だから昨日師匠の剣の鍛錬をこっそり覗いてみた。加減した攻撃じゃない、本気の剣を……。


「獣心流――鹿角斬(ろっかくざん)」


 巨大な鹿が鋭い角を振るうイメージで剣を振るう。

 魔力でコーティングされた剣による斬撃。

 これで師匠の体勢を崩した。

 しかしすぐに整えて反撃。剣を翻して受け流し、次の攻撃に移った。


「獣心流――砕犀突」


 巨大な犀が突進するイメージで剣を突く。

 魔力剣先に集中させた刺突。これで父さんの防御を突破。それなりのダメージを与えた。

 怯んでいる隙に攻撃を開始。しかし攻撃に集中しすぎたせいで反撃を許してしまった。


「個!」


 体を小さくして魔力を全身に覆う。これで師匠の猛攻を防いだ。


「散!」


 隙を見て魔力を全身に分散させて身体を全体的に強化。その中で足を強化し、その脚力で退避。これでひと間ず間合いを取った。


「はぁ……はぁ……」


 息を整え、剣を構える。


 連続で魔法を使ったせいか疲れてきた。

 全身から汗が流れ、疲労感が枷となって俺を縛る。手足も若干震えてきた。

 どうやら魔力も体力もそろそろ限界らしい。


 ダメだな、こんな調子じゃ実戦でつぶれてしまう。

 今は想像で戦ってるからアレだが、現実はそうはいかない。試合でも相手は待ってくれなどしないのだ。


 これから大きな技を使うのだ。いちいちこの程度でへばっていたら俺の目的など達成出来やしないのだ。



 魔力を全身から最大限に放出し、剣に集中させる。ありったけの量の魔力を圧縮し、最強の刃をイメージした。

 剣が持っていられなく程に震え、そして赤く光る。その熱と輝きが限界に達した瞬間、俺は剣を振り下ろした。


「獣心流――獅子咆牙!」


 剣から振動波の刃が射出。それはイメージしている師匠を通過。その後ろにあった地面を抉った。

 砕かれた地面から石の破片が飛び散る。砂が爆風によって巻き上げらる。


 一撃を打ち込んで俺はその場に倒れた。

 ああ、もう駄目だ。眠気がすごい勢いで襲ってきた。……こりゃ早く寝ないと死ぬわ。






「ん?」


 視界に影が映る。

 シルエットは人型、しかし背丈はまるで子供のように低く、手足も異様に長い。

 人に近い形をしているが人間ではない。


「……人型魔物モンスターか」


 魔物《モンスター》。

 普通の獣とは違って魔力を持つ動植物の総称。

 種類は千差万別で、元の世界でも見た事のあるような動植物に似ている種類や、元の世界では空想の動植物とされた種類、または元の世界では感がられない種類まで存在している。


 そう判断した俺はそのモンスターに意識を集中する。

 映像が拡大されてハッキリと姿を捕らえた。

 醜い顔に子供のような体躯、しかし手足は長い。

 そう、おとぎ話やラノベでおなじみの下っ端悪役、ゴブリンだ。


 初めて見る魔物に俺は興奮した。

 異世界に転生して早7年、やっと本格的にファンタジーっぽい展開が来たのだ。

 ここまで来たらもう決まっている。あのゴブリンを狩るしかない。

 アイツを倒すことで俺の経験値にして、ドラゴンナイトになるための糧にしてやる!


 弓矢を構える。

 弦を引き絞り、矢の照準を合わせ、弓と矢に強化魔法をかけて飛行距離と威力を上げる。

 この距離なら確実に当てられる。向こうはこちらに気付いてない上にあまり動かない。

 いける、いける筈だ。この俺なら……。



「(なのに何で……何でこんなに僕は震えてるんだ!!?)」


 弓を持つ手が震える。 

 カタカタと音を立ててブレる弓矢の照準。

 息が荒く、心臓の鼓動が高まり更に揺れが強くなる。


 何故だ、何故ここまで動揺する?

 この距離なら、この状況なら当てられるはず。

 相手は魔物だ。たとえ殺しても罪には問われず、むしろ良く倒したと称賛される。

 もし失敗しても俺なら逃げられる。何も問題はない……!




 結局、俺は……僕は撃てなかった。




 身体が……僕の何かが撃つことを拒否していた。



 何故だ?


 何故今更僕は躊躇した?


 自信がなかったからか?


 あんなに練習したのに?



 いや、そんなことはどうでもいいか……。




「結局、僕は何も出来なかったんだ………」



 やっぱり、僕は根性なしだったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る