第10話
「ドルフィナス。お前の兄のアルコだ」
そういって微笑むお父様の後ろには一人の幼女がぽつんと立っていた。
俺より二歳ほど下の女の子。
この屋敷が初めてなのか、きょろきょろしている。
「ドルフィナスだ。今日からお前の妹になる。アルコ、長男としてしっかり面倒をみてあげなさい」
そう言われて幼女は前へ進み出た。
「ドルフィナスよ!よろしくねおにいさま!」
「ああ、アルコだ」
我が妹は元気いっぱいにお辞儀した。
対する俺は少しぶっきらぼうに答える。
「……」
俺と同じ藍色の髪は天然パーマなのかふんわりしており、思わず触りたくなる。
丸々と大きい目は小動物みたいで可愛らしい。
「…というわけでこの子は今日からここに住むことになった」
「はい。でも何故いきなり? 義理の子なら兎も角、父上の子なら最初から一緒に住んで良いのでは?」
「……事情があったのだ」
「?」
父上は強引に会話を終わらせてその場を去った。
早歩きで誤魔化すかのように。
「……どういうことだ?」
そんな父上の様子に俺は違和感を抱く。
あの人は俺に対して甘々だ。なのに何であんな拒絶する態度を取る? そこまで触れられたくない事なのか?
「アルコ坊ちゃま、ドルフィナスお嬢様は遠方からの移動でお疲れです。ですので今日はもうお休みになります。ご親睦を深めるのは明日からでよろしいでしょうか?」
妹の使用人らしき侍女がそう語る。
さっきは元気が良かったので気付かなかったが、妹は疲れているように見えた。
「分かった。妹を頼む」
「了解しました」
妹はそのまま侍女に促され与えられた寝室へと案内されていった。
俺はソレを見届けることなく自室へと戻る。
「さて、どうするべきか……」
自室で俺は妹の扱いについて考えていた。
既に方針は決まっている。
普通に妹と接してワガママな悪徳令嬢にならないよう注意するだけだ。
俺が思うに、サイコパス等の精神的な疾患でもない限り、生まれついての悪党なんて存在しない。
俺がちゃんと兄として接し、両親の代わりに叱ったら性格は矯正されるはずだ。
多少ワガママになるかもしれないが、何もしないよりはマシだとともう。
「(まあ、あの両親ならワガママになっても仕方ないか……)」
俺は確信していた。あの両親には子供をちゃんと育てる才能がないと。
二人とも俺を引く程溺愛しており、俺に非がある状況でも相手のせいに仕立て上げてありもしない責任を取らせようとする。
情報源はお誕生パーティの時だ。俺はミスってジュースを零して他の子のドレスを汚してしまったのだが、あの親は何の注意もしなかった。
その時は恥をかかずに済んだと思ったが、なんか周りの様子がおかしい。
気になった俺はパーティに参加していた子たちの話を聞きまわった。
なんとあの親、俺が四歳の頃に似たようなことをして注意するどころか、逆に子供とその親へクレームつけやがったという。
これだけで終わりではない。なんと次は逆のことをされ、そのことで子供とその親へクレームつけやがったらしい。
この話を聞いて俺は思った、あの親はダメだと。
典型的なモンスターペアレンツである。そりゃそんな親のとこにいたらオルキヌス家の子供はあんな性格になるわ。
ということで俺はその要因を潰すために自他共に厳しくしなくてはいけない。
両親が百の甘さを見せつけるなら、俺はその十倍の厳しさを教える。
しかし、ただ厳しく接しても人は従わない。
人を動かすにはまず信用してもらわなくてはいけない。
信用しない人間には子供すら従わない。これは生物として当然の防衛本能だ。
ではどうやって信用を得るか、その結果出たのが彼女と一緒にいることだ。
だから、尊敬できる兄を演じなくてはならない。
ダサい真似は晒せない。
もし劣っている兄だと思われたら、俺はもう彼女を叱れる存在ではなくなる。
信頼しているからこそ、尊敬しているからこそ説教に耳を傾けるのだ。
そのためには努力しなくてはならない。
あの両親の代わりに自分が貴族としての見本を見せなくてはいけないのだ。
「(……前途多難だな)」
正直言って自信ない。
前世でも俺は決して尊敬できる人間とは言えないような人間だった。
ただダラダラと一日を過ごし、仕事もテキトーでハイハイ頷くような指示待ち人間だった俺が、転生したからといっていきなり変われるとは到底思えない。
けど、やるしかないんだ。
時間はたっぷりある。
親のとはいえ、金も権力も人脈もある。
前世とは比べ物にならないほどの好待遇。これで出来ないわけがない。
まずは鍛えよう。
子供は強いものが好きだ。ならドルフィナスも好きに決まっている。
俺自身強くなりたいと思っていた。なら丁度いいじゃないか。
強くなって夢果たして、序に妹から尊敬される。いい話じゃないか。
「いっちょやるか!」
明日からがんばるぞい!
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