第3話
無駄に広く、無駄に豪華な家具に彩られた自室。
俺は一度リラックスして『今世の俺』が知っている情報についてまとめていた。
俺の名はアルコ・オルキヌス。
ローラシア大陸の西部を支配するセタセア王国の伯爵、オルキヌス伯爵家の長男だ。
父親はカイトン、母親はステネラ。母の方は外国から嫁入りしたらしい。
母方の家名は知らん。なんか面倒な名前だったのは憶えている。
我が家の歴史は浅い。
曾祖父であるオルガが戦争で手柄を立て、爵位と領地を授かったのがオルキヌス家の始まりだ。
最初は男爵からスタート。手柄を立てて領地を大きくし、貴族である曾祖母を嫁に貰い、伯爵にまで登り詰め、領地経営の地盤を整えて、しばらく無難に統治してから没した。
曾祖父の死後は祖父が代替わりとなって曾祖父の遺したシステムを丸々運用し、親父もまたソレに乗っているようだ。
我が父カイトンが曾祖父のような傑物かは怪しい。
領地経営については話題が上がらなかったので知らんが、剣の腕などの戦闘力はそんなに高くないと思う。
体格はガッチリとして背も高いのだが、メタボ体型なのだ。
筋力と体重はあると思うが、アレでは碌に動けまい。
母親は良くも悪くも貴族の箱入りお嬢様であり、親父とは政略結婚だったらしい。
とはいっても夫婦仲は良好だと思われる。少なくとも息子の前では。
全体的にスレンダーかつ高身長で、親父とは正反対だ。
そして、我侭に育てられた典型的の俺。
あと妹がいるのだが別居中だ。名前は……なんだっけ?まあ時がくれば思い出すだろう。
「俺の家族構成はこんな感じか。次は世界観だな」
この世界を一言で表すならファンタジー世界だ。
世界観は中世ヨーロッパ、魔法という特殊な技術が存在し、魔族や魔物などの人類に敵対する種族、そして亜人と呼ばれる人間に似てはいるが文化やら価値観やらの違いで相容れない『隣人』が存在している。
よくネット小説で使い古された設定。とても分かりやすい。
「……ッハハ」
理解した途端、俺は爆笑したい衝動に駆られた。
異世界転生。剣と魔法の世界。ラノベや漫画のようなファンタジー。
これで心躍らないわけがない!
「アッハッハッハッハ! なんだ、あの神様ちゃんと要望通りにしてくれたじゃないか!!」
誰もいない書庫で俺は高笑いした。
最初は一時とはいえ記憶をなくしていたので不安だったが、確かに俺は異世界へ転生したのだ。
貴族という恵まれた立場、スリルとロマンを兼ね備えた世界観。実に素晴らしい。
「特典に関しては……まあ、今はいいだろう」
俺の頼んだ特典だが、こればっかりは試しようがない。
いくら異世界とはいえドラゴンは伝説級の生物。そう簡単に会えるわけがない。
だが、ドラゴンの縁を特典としている以上、いつか会えるだろう。
俺がこうして前世の記憶を思い出したように。
というわけで今日からは体を鍛えることもセットにした。
まずは柔軟運動。
体を伸ばしてみると、まだ子供だからかめっちゃ体が柔らかい。
なんとスムーズに体が伸びることか。
想像以上に体がスムーズについてくる。
素晴らしい肉体に恵まれたものだ。
こんなポテンシャルを持ってるなんて我が家の遺伝子は意外と優れてるんじゃないのか。
次は準備運動。
腕立て腹筋スクワット。
前世でよく見てた筋トレ動画の通りにトレーニングを続ける。
これもガキなのにけっこう出来る。
合間合間に休憩を挟むのもポイントだ。
連続で筋トレなんて出来るか。
そしてランニング。
昼食を食って、少し休憩してから走り回る。
別にフォームとかそんなのは考えない。ただテキトーに限界まで走り回る。
ゼーゼー息が切れるまで走る。
最後はシャドーと型。
前世のネットで見聞きした空手やらボクシングやらの動きを体に叩き込む。
こればっかりは指導者がいないせいでうまくいけたかどうか怪しいが、体を動かす練習にはなるだろう。
あと合間合間に勉強。
自室にある子供向けの絵本や教本を読んで、言語学習を行う。
まだ子供だからこの程度でいいだろう。
いや、この程度で留めるべきだ。
今の精神年齢向けの本なんか読んだら逆に怪しまれる。
「(今出来るのはこの程度か……)」
本当はもっとやりたいことがあるが、幼児の俺が出来るのはこの程度だ。
特典のチェックなりなんなりはもう少し大きくなってからでも十分だろう。
前世のように怠けなければ……
『オタクの癖に話しかけんなきも~い』
『そんなことして自分が本気でイケてるって思ってるの?』
そうだ。僕は……俺はもうあの時の『僕』とは違う。
俺は別人に生まれ変わったんだ。
もう誰にも俺をカマ野郎なんて呼ばせない!!
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