第2話
先ほど頭を強く打った拍子に思い出した。
僕の……俺の名はアルコ・オルキヌス。
オルキヌス伯爵の長男としてクソ甘やかされてきた結果、生意気なクソエロガキに育ってしまった。
今世の俺はクソガキだった。
まだ精通してない子供にも関わらず、おっぱいおっぱい言って侍女たちの胸を揉んだり着替えを覗くなどのセクハラ……いや、性犯罪を繰り返していた。
他にも癇癪を起こして気に入らない執事に当たったり、お茶会とかで気に入らない相手に殴りかかったりしたらしい。
ちなみに気に入らない理由はその相手がイケメンだったりモテていたとかだったりする。なんじゃそりゃ。
とまあ、こんなクソ野郎に俺は転生してしまったようだ。
俺はある日、いつも通りメイドたちにセクハラしていた。
木に登ってメイドの着替えを窓から覗いていると、滑って転落してしまった。
前世の“僕”なら兎も角、今世の俺は碌に動きもしない太った子豚ちゃん体型なのだ。当然の結果である。
しかし、俺にとっては不幸中の幸いだった。
なんせ、その衝撃のおかげで俺は前世を思い出したのだから。
現在の5歳児の頭に、前世の記憶が一気に流れる。
そのあまりの情報量に俺の脳は知恵熱を出してしまい、活動を一時的に停止した。
その後、俺は高熱を出して一日中寝込んだ。
それなりに爵位のある貴族の子供にはお目付け役というのがいる。
貴重な子供が怪我しないように見張る係みたいなものだ。
誰がやるとハッキリとは決まっておらず、使用人たちの当番制になっている。
しかし我が家での実態はお飾り。
当然である、偉そうで生意気なクソガキなんぞを誰が真面目に見ようか。
更に、今日のお目付け役は女性である。
名前はディーネ。メイド見習の十二歳だ。
彼女のことだけは覚えていた。
まだランドセルを背負っているような年齢でありながら、既に素晴らしいお胸が確認されている。
何度もお着替えを覗き、何度もパイタッチしてその素晴らしさを堪能し、脳裏に焼き付けた。
自分で言うのも何だが、吐き気がするような暗記の仕方だ。
とまあ、こんな感じに接していたので、当然彼女には嫌われており、お目付け役になった日なんてソレはソレはいやそうな顔をしていた。
当然、彼女が俺を真面目に監視するわけはない。
しかし、そのせいで貴族の子供が怪我したとなれば大変な失態になる。
「どうかディーネをお許しください! 後で厳しく処罰するので、どうか……どうか!」
目が覚めると、彼女と彼女の上司であるメイド長が顔を真っ青にして俺に平伏していた。
「下女風情がふざけるな! 儂の息子を怪我させおって……貴様など娼館に売っぱらってやる!」
「(……まずいまずいまずい!!)」
なんだこのハードな状況は。
寝起きで知り合いが罰として娼館行きとか目覚め悪すぎる!
第一、怪我したのは俺のせいであって彼女のせいじゃない。
確かにお目付け役をサボるのはいけないが、ソレは俺が普段から嫌われる様なことをしたせいだ。彼女は悪くない。
しかし、いきなり前世と同じような対応をしてしまえば怪しまれてしまい、最悪の場合悪魔憑きとか入れ替わり《チェンジリング》とかと思われてしまう!
この場合の最適解は一つ……!
「やめてー! 僕のディーネを取らないでー! うわ~ん!」
子供らしく大声で泣き叫ぶことだ。
恥ずかしいが仕方ない。
前世の全ての黒歴史が記載されたノートを読まれるほどの屈辱だが、彼女の人生には代えられない。ここは甘んじて恥辱を受け入れるべきだ。
「……次はない」
ソレだけ言って親父は出て行った。
とりあえずこれで一難去った。次は……。
「若様、の様な処罰も受けますのでどうか許して下さい!」
コレだな。
頭を下げて恐怖を滲ませた顔で、僕の言葉を待っている。
ここで下手に許すと他の使用人にも示しがつかないし、何より彼女のメンタル面を回復させる必要がある。
「なら今日から俺のやってきたことを忘れろ。だからこの件も忘れろ。これでチャラだ」
とりあえず無駄に強い言葉でその場を終わらせ、俺も部屋の外へ出て行った。
「(しっかし一度の失態で娼館送りか。かなり厳しいな)」
廊下を歩きながら俺は先程のやり取りを思い返す。
いくら雇い主の子供が怪我したからといって、いきなり娼館に送るとか前世では考えられない。
一瞬冗談かと思ったが、今世の俺の“常識”がソレを否定している。
「こりゃ前世とのすり合わせをするべきだな」
俺はこの世界について知る必要があるようだ。
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