悪徳王と毒龍の女王~踏み台に転生した俺は邪龍使いとなる~

@banana333

序章

第1話


「というわけで、貴方は死にました」

「……え?」



 突然の死亡宣告に僕は『え?』としか言えなかった。

 果てしなく広がる夜空の天井にこの部屋を照らす星々の明かり。部屋というにはあまりにも広く、果てのないそれは一つの世界だ。

 だというのに、質素なベッドや箪笥などの最低限の家具が置かれている。どこにでも売っていそうな安物ばかりだ。


 そして目の前にいるのは神を名乗る美女。少なくとも本人はそう言ってる。神様が言うには、間違って僕を死なせてしまったらしいが、死んだという実感がいまいち自分には無い。

 確か母さんに買い物を頼まれた帰り道、突然降り出した雨に僕は家路を急いでいた。瞬間に襲ってきた眩い光と轟音。


「貴方は隕石がぶつかって死にました」

「隕石が直撃ってなかなかないよね。というか空から石とか……それって天罰?」


 隕石って見ようには神様の裁きみたいな面があるよね。

 あと、事故とはいえ天から降ってきた物にあたって死んだってことは……どう見たって天罰じゃん。


「それで、なんでここに僕を連れて来たんです?」

「ここは神界じゃ。人間が来ることは本当は出来ん。君は特別にワシが呼んだんじゃよ。……えーと、優(ゆう)くん?」


 まだ名乗ってないのに、僕の名前を言い当てた。これは益々この女の人がが神様だって証明している。

 このままいけばもしかして……。


「それで……これから僕はどうなるんでしょうか? やはり天国か地獄……?」

「いやいや、君はワシの落ち度から死んでしまったのじゃから、すぐ生き返らせることができる。ただ、この世界ではない、君たちでいう神様転生じゃ」

「……」」


 やっぱり異世界転生だ。これから僕はテンプレ通り転生することになるのだ。

 こうなる展開だって薄々気づいてたんだよね~。この流れならチートもらって異世界で俺tueeしてハーレム作って……最後のはめんどくさそう。


「そう、君たちの好きなチーレムじゃチーレム!」

「ち…チーレム?」

「なんじゃ? 君はチーレムを知らんのかえ? チート&ハーレ異世界転生。略してチーレムじゃ」


 楽しそうに言う女神。

 な…なんだこの神様。神様の癖に俗世……ネットスラングに染まりすぎじゃない?


「あのすいません、僕は……俺はハーレムには興味ないんですよ」

「ええ!?」


 女神はまるで信じられないといった顔で僕を見た。……そんなに驚くことかな?


「だってハーレムって女とずっと一緒にいるってことでしょ?しかも何人も同時に。そんなの肩が凝って仕方ないですよ」


 ハーレムというのはラノベやアニメで見るから楽しいのだ。僕も主人公に自己投影するが、主人公に成り代わりたいと思ったことは一度もない。



「え?じゃあどんなのがいいんじゃ?」

「僕は信頼出来るパートナーが……何があっても裏切らない使い魔が欲しい」

「うーむ……それは魔物使いになりたいってことか?」

「そう!」


 やっぱり男なら女より相棒が欲しいよね! 女の尻ばっか追っかけてる奴は男じゃない。発情期の下半身脳だ。


「ふむ、ではそういう才能を与えよう」

「よっしゃ!」


 僕は……俺は堪らずガッツポーズをした。


 俺が思い浮かべる最強の相方はドラゴン。

 強く、美しく、そして気高い最高の相棒。そんなパートナーと共に異世界を回りたい。

 雄々しい背中に乗って剣や槍を振るうドラゴンナイト。共に世界を旅して、強敵と戦い、人々を守る。そんな存在に俺はなりたい。


 龍の使い魔なら何でもいいが、出来るなら炎のドラゴン、加えて東洋の龍がいい。

 舞い上がる龍の背に跨り、刀を手にして敵を倒したい!


「それじゃおぬしにはドラゴンの縁を授けよう! 時期が来ればドラゴンと出会い、主の力になってくれるぞ!」


 神様が微笑んだ次の瞬間、僕の周囲に魔法陣らしきものが展開される。

 おそらくこれが転生のための儀式なんだろう。



 これで変われる。


 僕は……俺は生まれ変わるんだ。


 こんな弱くて狡くて情けない僕じゃない。もっと強く、もっと優しく、もっとカッコいい俺に変わるんだ!













「……行ったか」


 転生者―――水嶋優みずしまゆうの魂を送り届けたのを確認した後、女神は冷たい声で一人つぶやいた。



『ヒデぇ女だなぁ』


 突如、虚空から声が響いた。

 水底から響くかのよう。ねっとりと陰鬱なオーラを纏う、男性とも女性とも取れない獣のような声だった。


『何も知らねえガキを鉄砲玉に使いやがって。可哀そうだと思わねえのか?』

「うっさいわね、いいじゃない祝福やったんだから」

『ヒャハハハ! 開き直りやがったこのアマ! やっぱ最低だな!!』


 ズズズッと音がした。

 何もないはずの空間が水流のようにうねり、蛇のような何かを模る。










『ああ、あの鉄砲玉はどんな風に死ぬのかな?』


 ソレは陰気な笑みを浮かべながらぼやいた。

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