第4話

 飽きた。


 かれこれ一週間ぐらいトレーニング(笑)をしていたが、もう飽きてしまった。

 なんていうか、この体になってから精神が肉体に引っ張られている気がする。

 まあ所詮は5歳児の脳みそなんだ。集中が続かないのは当たり前だろう。

 いつかは治ってくれるさ。


 てか最近気づいたけど、やっぱ俺の精神も5歳児に戻ってやがる。


 精神なんて脳の化学物質ひとつでコロコロ変わる不安定なもの。

 所詮は脳みそというハードディスクによって作られたソフトウェアの一部みたいなものだ。

 精神を作っている脳みそも肉体の一部である以上、肉体が変わることでその影響を受けるのではないだろうか。

 つまり、肉体が別ならたとえ記憶が同じでも精神もまた別。ならば自分とは………。



「(……って、今はそんなこと考えたって意味ないか)」


 そうだ、そんな薬にも毒にもならないことを考えたって意味などない。

 試す手段も証拠を見つける手立てもないのに、一々仮設を立てたらキリがない。

 精神か体に引っ張られている、精神が幼児化している。それでいいじゃないか。


 ハイ、この話は終わり。次の話題に行くぞ。



 ということで俺は我が家の書庫に行った。


 そういえば書庫に来るのは初めてだな。

 今までは部屋の絵本を読んで満足してたが、最近は飽きたので本を探す。


 書庫というより、図書館のようだった。

 建物一つの中に本棚が並べられ、その中に本が並んでいる。


「おやアルコ坊っちゃん。ようこそ書庫へ」


 本棚の陰から現れた老人。確か名前は……。


「やあモンブ、実は面白い本を探していてね、何かないか?」

「本ですか? ん~、今のお坊ちゃまの年齢を考えるとこれが妥当かと」


 モンブは書庫の奥へと向かい、少し経ってから一冊の本を俺に渡した。


「これは?」

「見ての通り文字や文法についての書物です。部屋の絵本を読破されたローゼンお坊ちゃまならこのレベルかと」

「なるほど」


 俺は本を受け取って椅子に座って勉強を始める。



 この世界の文字はアルファベットに似ているが若干違う。

 ギリシャ語のα《アルファ》とかΔ《デルタ》とかφ《ファイ》とか。そういったものが多い。

 文法も発音も違いがあり、正直英語の知識は参考程度にしかならない。むしろ混合しそうでかえって邪魔になることもある。


 そして英語最も違う点。それはその文字の1つ1つを縦横様々に組み合わせ意味を作り上げて言葉にするという、漢字に似た特性だ。

 だがこれを使うのは学のある一部の貴族や王族だけで俺たちは別に学ぶ必要はない。

 使うことで知的に見せることが出来るので覚えるのに損はないらしい。

 ちなみにアルファベットに似た字を素字そじ、漢字に似た字を組字くみじと呼ぶらしい。


「(まずは)


 とりあえず今は文字を覚えることだな。俺は脳内で何度も書き取りして文字を覚えようとした。


「……もう、ダメだ」

「いえいえ、一時間も集中なさるとは流石です坊ちゃま」


 やっぱ今の俺、幼児化してるわ!





 勉強と筋トレと並行して魔法の練習、もっと言うなら魔力の出し方も練習するようになった。

 目を閉じて自身の魔力を意識する。呼吸を整え、心を落ち着かせる。

 発生源はヘソあたり。そこに集中することで『力』が血液のように全身を駆け巡った。

 心臓の鼓動を感じるかのように、魔力が流れるのを実感出来る。


 これを実感するようになったのは三日前に飯を食った後のこと。身体に力が流れ込み、何かが満たされるような感覚があった。

 俺は単に腹いっぱいになっただけと思っていた。栄養を取り入れて身体が満足した。その程度の認識だった。

 しかし回数を重ねるにつれそれが間違いだと気づく。そして一週間後、これが栄養や体力とは違うものと気づいた。


 おそらくファンタジー小説とかで見る魔力や気功といったもの。これを使うことで何か出来そうな気になった。


 この力の制御は俺の意識がある限り、この力が続く限り出来る。つまりどこでも出来るというのだ。だから日が昇っているうちは勉強と筋トレ、日が沈むとこの魔力トレーニングをするようにしている。


 疲れたら食っちゃ寝して回復。そしてまたこの訓練を行う。その繰り返しだ。


 力を出すには、けっこう集中力と気合がいる。

 俺の力がまだ微弱なせいか、気を抜くとすぐに散ってしまうのだ。

 それにこの力は元に戻ろうと暴れるからそれも抑えなくてはならない。


 力を集中させて循環させる。それを繰り返す度にどんどん力は弱まり、やがて維持できないほどの小ささになってなくなる。

 力が弱まると同時に眠気が襲い、減っていくにつれて大きくなっていった。

 そろそろ潮時だ。


 眠気に逆らうことなく目を瞑る。


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