第550話 相性の問題

「〜〜〜!」


 俺、ミオン、ベル部長それぞれで、お問い合わせに要望を出してログイン。

 昨日、あの後どうなったかをエルさんにでも聞こうと応接室に来たら、スウィーがすごい勢いで飛んできてミオンの頭の後ろに隠れた。


「スウィーちゃん?」


「えっと……」


 スウィーが睨んでる先にはエメラルディアさんがいて、エルさんの後ろに隠れている。そのエルさんは、大きくため息をひとつ。


「すまない。エメラルディアさまは妖精や幻獣が好き過ぎてな……」


「いや、まあ、聞いてはいたので」


 それはいいとして、


「スウィーってさ、エメラルディアさんと知り合いなんじゃないの?」


「〜〜〜…」


 その問いかけに、そっぽを向いて口笛を吹くスウィー。

 いつもはちゃんと鳴ってるのに、動揺してるのか全然音出てないし。


「はあ……。エメラルディアさん、スウィーたちもうちの家族なので、嫌がるようなことはしないでください」


「ぁ、ぁぃ……」


 スウィーも本気で嫌がってるわけじゃないと思うんだよな。

 猫みたいなもので、構われ過ぎるのはウザいってあたりなんじゃないかと。


「スウィーちゃんも機嫌直してください。おやつにしましょう」


「〜〜〜♪」


 ミオンにそう言われ、あっさりご機嫌になるスウィー。

 どっちかというと、エメラルディアさんよりも、おやつの方が重要って感じだけど。


「あれ? 白竜姫様は?」


「姫はおやすみ中だが……、おやつの時間なら起きてくるだろう」


 笑みを浮かべるエルさん。

 先におやつにして、それから何があったかじっくり聞くでいいか。


 ちなみに、ベル部長から聞いた話では、サバナさんの島に侵入した連中の半数近くが悪魔だったとのこと。サバナさんを救出する途中やその後で全て倒されたそうだ。


「捕獲できなかったんでしょうか?」


「1体捕獲したそうよ。マリーさんが絞め落としたって聞いたわ」


「さすがです!」


「えええ……」


 絞め落としたって、悪魔も頸動脈とかあるの?

 まあ、気絶させる攻撃とかはありそうだし、不可能でもないのか……


「ショウ君?」


 おっと。さて、何を作ろうかな。

 そういや、まだパウンドケーキって作って無かった気がするな。

 プレーンなやつを作ってみて、問題なさそうなら、ドライグレイプルを混ぜたやつも作ってみるか。


 ………

 ……

 …


「なるほど。人がたくさん来たから、この島に戻ってきたんですね」


「ぁぃ」


 昨日、俺たちと別れてサバナさんを探してたエメラルディアさんは、わりとあっさりとサバナさんを見つけたらしい。

 サバナさんを見つけたというか、エサソンたちを見つけたらしいけど。


「エメラルディア様は妖精の気配に敏感なのでな」


「なるほど」


 ドライグレイプルたっぷりのパウンドケーキを頬張るスウィーの方を見ると、ぷいっとそっぽを向いた。

 やっぱ、スウィーも気づいてたっぽいよなあ。昨日、エメラルディアさんが来た時にいなくなってたし。


「アージェンタさんは竜の都へ?」


「ああ。だが、悪魔を捕まえたという話があって、今は死霊都市のはずだ」


 尋問してるだろうし、これでワールドクエストにあった目的もわかるかな?

 あ、いや、向こうの制御室で非常用の魔晶石を探してたのは、一緒にいた悪魔たちもなのか?

 うーんと考え込む俺に気をつかったのか、


「何か情報を得られれば連絡が来るだろう。後のことはアージェンタ様に任せておけばいいはずだ」


「そうですね」


 まあ、俺ができることはもう無さそうだしなあ。

 ……どこかのタイミングで回収しちゃった非常用魔晶石は返さないとだけど。


「アルテナちゃん、スウィーちゃん、おかわりいりますか?」


「うん!」「〜〜〜♪」


「わ、私も……」


「はぃ」


 エメラルディアさん、結局、ここに滞在するのかな?

 客室は空いてるから全然いいんだけど、アージェンタさんはどう考えてるんだろ。


 ***


 夕飯後、デザートの水ようかんを食べつつ、美姫に相談。

 持って帰ってきちゃった非常用魔晶石だけど、本来ならサバナさんの物なはず。


「難しいところよの。結局、管理者権限を持つ指輪がなければ、扉は開かなかったのであろう?」


「それはそうだけど」


「うーむ……」


 美姫が悩んでくれてるのは、俺が嘘をつきたくないのを知ってるからなんだよな。

 最初っから無かったことにしても、運営以外にはバレないんだろうけど。


「ところで、兄上は制御室へとつながる扉はどうしたのだ?」


「ん? そりゃまあ、ちゃんと閉めてきたけど」


「なら、サバナ殿がその扉を開けられるようになるまでは、兄上が預かっておくほかあるまい」


 まあ、それしかないよな。

 サバナさんもそのうち管理者権限付きの指輪を手に入れるだろうし、その時にアズールさんから渡してもらおう。


「あ!」


「む?」


「さっき扉ちゃんと閉めたって言ったけど、あいつらが開けた扉は開けっぱなしにしとくべきだったんじゃ……」


「扉を開けた連中は悪魔に倒されたのであろう? その悪魔たちもレオナ殿らに討たれたと聞く。今さら制御室への扉がしまっておっても、誰も不思議に思うまいて」


 確かにそうなんだけど、うーん……

 そういや、制御室で悪魔に倒されたプレイヤーのドロップも放置してきちゃったけど、あれどうなるんだろ?


 ………

 ……

 …


「ケイオス帝国を建国した人たちは、全員、キャラデリしたみたいよ」


「「え?」」


 どうやってわかったのか不思議だったんだけど、彼らが設立していたプレイヤーズギルドが消滅してたらしい。

 キャラデリで誰もいなくなったギルドってそうなるんだ。っていうか、制御室のドロップも本当に誰のものでもなくなっちゃったな。


「無理矢理押し入って建国し、即座に滅亡した上に、悪魔にも騙されていたとあってはのう……」


 なんだかなあ。


「あの、サバナさんは今後はどうするつもりなんでしょうか?」


「それに関してだけど、近日中にサバナさんが改めて動画で発表するそうよ。昨日、何が起きたか知らない人も多いし、それを説明しないとっていうのもあるわね」


 ナットやいいんちょも詳しいことは知らなかったもんな。

 それを詳細に説明した上で、今後の転移魔法陣の運用を変更するらしい。


「実はその内容は知っておるのだがの」


「死霊都市にある転移魔法陣を南の島に置いてもいいかって話をもらってるのよ」


「あー、それなら安全か」


 死霊都市の南の島への転移魔法陣は、アズールさんと竜人族がしっかり守ってくれてるし、南の島ではガジュたちが見張ってくれてるし。

 問題は氷姫アンシアを説得できるかだけど、今回の失態もあるし、強く反対もできないだろうという話。


「ただ、サバナ殿が建国してしまうと問題がのう」


「うっ、確かに……」


 そう考えると、ラムネさんの島って、結構うまくやってる方だよな。

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