火曜日

第549話 とりあえずの暫定対応

「おは」


「おう、なんか昨日はいろいろあったみたいだな?」


「だな」


 ナットも当然、ワールドアナウンスを聞いていて、建国からの即滅亡があった話は知ってるっぽい。

 ただ、ずっと『妖精の友』ギルドの本拠地、王国南部のラシャード領にいたので、詳細は知らないとのこと。


「詳しい話は昼飯の時にな。それよりキュミノンと小豆の交換はオッケーだぞ」


「おおっ!」


 こっちが出すキュミノンはクロたちにお願いすればすぐなので、ナットの方の小豆が用意できたタイミングで。

 いいんちょと二人で死霊都市まで運んでもらって、うちのギルドの出張所で交換ということになっている。


「うまくやれよ」


「うっせ……」


 ………

 ……

 …


 お昼休み。昨日の夜のことを(俺が忍び込んだこと以外は)一通り説明したんだけど、いいんちょはログインしてなくて、全然知らなかったらしい。


「それで、サバナさんは島を取り戻したの?」


「いや、その後どうなったかは知らない。時間も遅かったからログアウトしたし」


 アージェンタさん、アズールさん、エメラルディアさんで、万事うまくやってくれたはず。


「ん」


「あ、レオナ様のアーカイブか」


 アズールさんたちが転移魔法陣を確保した後、救援に向かうプレイヤーの中にレオナ様も入っていて、その様子はライブで配信してたと。

 ミオンからタブレットを受け取って、そのアーカイブを再生。レオナ様のライブ、午後9時から始まって午前2時まで続いてるのか……


「午後11時ぐらいからかな?」


「はぃ」


 半分ぐらいまでスキップして、それっぽい場面から再生開始。

 集まったメンツはレオナ様を筆頭に、竜族と面識のあるトップクラスの人たちらしい。っていうか、


「「「え?」」」


「真白姉もいたんだ……」


 レオナ様と仲良さそうに話してる真白姉、もとい、マリー姉。その隣にいるのはシーズンさんだよな。

 二人とも公国の南にいたはずなんじゃ……。まあ、今はそれはいいや。


『注目ー。向こうの島に悪魔がいるから気をつけてねー。捕まえてくれたら、僕からいいものをあげるよー』


 アズールさんがそう呼びかけると、集まったメンバーから歓声が上がる。

 サポートしてくれている竜人族たちが、その人たちを順番に転移魔法陣へと送り出して行った。


「悪魔が島に押し入って建国したのか?」


「擬態した悪魔に騙されて建国したんじゃない?」


「ああ! そういうことか!」


 ぽんと膝を打つナット。

 なんだけど、俺たちはちょっと違うんじゃないかと思ってる。

 昨日の夜、あの後、


「うーむ、兄上が聞いた『管理者権限を持つ指輪を借りている』という言葉が気になるところよのう」


「確かに誰から借りてたのかは気になるよな……」


 管理者権限がある指輪はまあまあレアドロップで、持ってるプレイヤーもそんなに多くはないはず。

 その件はベル部長たちで調査するって話だし、俺にできることは特にないしと、そんなやりとりがあった。


「スキップしようぜ」


「そうだな」


 探してる途中の様子はスキップで飛ばし飛ばしで。

 サバナさんがどのあたりにいるかは、島側の転移魔法陣を警護してるゲイラさんが伝えてくれてるからか、救援パーティは揃って進んでいく。

 古代遺跡を出てしばらくは一団となっていた救援パーティだったが、しばらく森を進んだところで3つのグループに別れた。

 マリー姉も別れちゃったか……


「もう滅亡してるんだし、サバナさんたち逃げ続ける必要なくね?」


「押し入って建国した人や悪魔がまだ残ってるかもしれないでしょ」


「あ、そうか」


 二人のいつものやりとりを聞きつつ、さらにスキップしていく。


「ぁ」


「おっと」


 なんか戦闘が始まってて、相手はかなり大きな鹿。なんだけど、レオナ様の動きがやばいな。

 それがあっさり終わったので、またスキップしようかと思ったら、どうやら他のチームがサバナさんを見つけたっぽい?


「どうやって連絡取ってるんだろ?」


「ギルドカード?」


「ああ、まとめてくれてる人がいるのか」


 レオナ様たちが戻っていくのでスキップしていくと、古代遺跡の入り口のところに救援パーティが集まってるっぽい。

 けど、エメラルディアさんの姿が見えないな……


「この人がサバナさん?」


 とナットに聞くいいんちょなんだけど、


「いや、俺、見たことねえし」


 うん、俺も見たことない……

 ミオンは見たことがあるようで、うんうんと頷いてくれた。


『ありがとうございました』


 深々と頭を下げるサバナさん。

 周りを囲んでいたプレイヤーたちが拍手をして一件落着……というわけにもいかず、今後のことも考えて、数名が残るとかそういう話をしている。


「真白さんも残るのね。会いに行けないかしら?」


「小豆の件で死霊都市行くし、ダメ元で聞いてみるか」


 それを聞いたミオンが、じっと俺の方を見る。

 俺からアズールさんに伝えておけばってことかな。セスと一緒ならって話になるかもだけど。


「俺から伝えておこうか?」


「お、マジか」


「今日はまだゴタゴタしててダメだろうけど、明日以降とかなら? 一応、竜貨を用意しといてくれ」


「おう!」


 ………

 ……

 …


「ショウ君。これを」


「ん?」


 部活の時間。ベル部長もすぐ来るだろうなと思ってたら、


「あー、しばらく建国できないようにするんだ」


 ミオンが見せてくれた公式ページには『建国システムの一時停止について』と書かれていた。

 中身をざっと見た感じだと『建国によって特定の状況のプレイヤーに一方的な不利益を与えることができたため』ってことらしい。

 これって昨日のゴタゴタのことだよな。ケイオス帝国の建国宣言で、島主のサバナさんのマイホーム設定も消えちゃったって話だし。


「お待たせ」


「ちわっす」「こんにちは」


 ベル部長が来て、いつも通りエナドリを開けてからゲーミングチェアへと。

 VRHMDを被って……、俺たちの見ていたページのことはもう知ってたようで、ページを下へとスクロールさせる。


「これ、ショウ君からも送った方がいいんじゃない?」


 そう言って指さした先には『現在、建国システムの再開に向けて改修を行っております。みなさまも疑問点や要望がありましたら、是非、お問い合わせよりお伝えください』と書かれていた。


「うーん、そもそも建国したあと何できるのかもサッパリなので、まず説明してほしいんですけど……」


 隣でミオンもうんうんと頷いてくれる。

 それでも俺が建国するメリットって無いと思うんだよな。


「じゃあ、まずは建国システムのちゃんとした説明が欲しいって送るといいと思うわよ?」


 まあ、そっか。

 損するわけでもないし、さくっと書いて送っておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る