第547話 ゲームチェンジャーの驚愕

『ショウ君?』


 ミオンが不安そうに聞いてくるけど、今はちょっと聞き耳に集中したいので人差し指を口の前に立てる。

 神経を研ぎ澄まし、扉の向こうの音を拾うと……


(この先が制御室ってやつじゃねえか?)


(だといいんだけどな。ん、開かねえ。管理者権限ってのがいるっぽいぞ)


 ……危ないところだった。開いてたら確実にバレてたよな。

 微かに聞こえる会話からして、扉の前に来たのは二人?

 

(確か管理者権限がある指輪ってのを、ケイオスさんが持ってたよな?)


(借り物らしいけどな)


(じゃあ、呼びに行くか)


 そんなやりとりがあった後、足音が遠くへと消えていった。となると、このままここにいるのはまずいか。


【聞き耳スキルのレベルが上がりました!】


 ふうと一息ついて、カメラの方に目線を向けると、心配そうにしていたミオンが小声で話しかけてくる。


『どうしますか?』


「どうにかやり過ごしたいけど……」


 聞こえてきた声色からして、二人とも若い男だったはず。

 ケイオスさんとか言ってたし、間違いなく押し入って建国した連中だろう。

 ひとまず重銀鋼インゴットが積まれてた部屋に隠れるのが一番かな?

 最悪、一戦交えることになるとしても、インゴットが積まれてたあの部屋の方が、戦いやすいし。


「いや、その前に……」


 制御室の非常用魔晶石を回収しておかないとまずい気がする。

 えーっと、制御コンソールの端っこだったよな。


『ぁ』


 うちのニーナ用のやつと同じぐらいかな? 取り外せるよな?

 両手で持ってみると何か引っかかってるようなので、ちょっと上にずらしてから引き上げることで取り出せた。

 いろいろ落ち着いたら適当な理由で返すってことで、インベントリへと放り込む。


「ルピ。先に倉庫だったところまで行って待ってて」


「ワフン」


『ショウ君はどうするんですか?』


「ギリギリのところで様子見して、こっちへ来るようなら倉庫のところでやり過ごすよ」


 いつ来るかわからないので、部屋を出て通路を戻り、角を曲がったところで待機。

 息を潜めて聞き耳に集中していると、扉が開いた音、そして、足音が4人、いや、5人かな?


「ここだ!」


「マジっすか?」


 聞こえてくる内容からして、やっぱり制御室のことを知ってるっぽい。でも、再起動の手順はどうなんだろう?

 ゴソゴソと何やら話し合ってるみたいだけど、


「おい! でかい魔晶石がねえぞ!」


 ……先に回収しといて良かった。

 なんか話し合ってる様子だったけど、怒号が聞こえてきてるし、かなり揉めてるっぽい?

 建国した連中、全然まとまりがないっぽいし、これ本当に計画してやったことなのか?


「おい、やめろ!」


「なにっ!? お前ら!!」


 !?

 叫び声が聞こえた後に激しい金属音がして、やがてそれが消えると同時に、


〖ケイオス帝国が滅亡しました!〗


『え!?』


 ……っ!

 ミオンに釣られ、思わず出しそうになった声を飲み込む。

 仲間割れ? 建国宣言したプレイヤーがやられたってこと?

 もう少し近づけば……、慎重に慎重に制御室まであと15mほどのところで、人影が見えたので立ち止まる。


「あてが外れたな。どうする? この奥を探すか?」


「いや、逃げた奴らが持っている可能性の方がありそうだ。追うぞ」


「わかった」


 去っていく足音が聞こえなくなるまで待つ。

 大きくため息を一つついて、カメラにむけてうなずいた。

 ミオンにも見えていたはずだ、


『ショウ君。あの……』


 奴らの頭にある大きな巻き角が。

 擬態した悪魔が交じってたのか……


「ルピ。こっち来て」


『ワフ』


 後ろを警戒してくれていたルピを呼び寄せ、もう一度、慎重に制御室へ入る。

 やられた3人分のドロップを避けて先を伺うと、悪魔たちは扉を開けっぱなしたまま行ってしまったようだ。

 もう少し奥まで覗いてみると、下り階段へと続いていて、さらに先は見えない。


「この先に転移魔法陣の部屋がある?」


『はい。階段を下りきった先で、大きな通路とつながっているはずです。そこを少し左に進んだ先の右手側に扉があります』


「さんきゅ」


 目的の場所までの道筋は見えたけど、油断は禁物だよな。


『ショウ君。部長たちの会議ですが、さっきの滅亡のワールドアナウンスがあって、休会中です』


 そうなるよなあ。でも、この島に救援を出せない状況が解決したわけじゃない。

 そこは俺次第なわけで……、もう10時半を回ってるな。


「アズールさん。そっちの準備ってどうなってます?」


『すぐに踏み込めるように準備万端だよ!』


 よし、さっさと終わらせよう。

 さっき倒された連中は、デスペナ中でセーフティーゾーンから出られないはず。

 いや、他の連中が慌てて戻ってくる可能性もあるかな。さっきの悪魔とかち合いそうだけど。


 ルピにまた先行してもらい、階段をゆっくりと下りていく。

 途中、いくつか分かれ道があったけど、ミオンのアドバイスをもらいながら、下へ下へといって大きな通路に到達した。

 少し左に行けば転移魔法陣のある部屋のはずで……


『ショウ君。その扉のはずです』


 ミオンのアドバイスに頷く。

 ルピに周りを警戒してもらいつつ、俺は扉に耳をつけて中の様子をうかがう。

 ……誰もいなさそうだな。


【祝福を受けし者のアクセスを確認しました。解錠しますか?】


「はい」


 扉を少しだけ開け、ルピと素早く体を滑り込ませた。

 中は部室ほどの広さの部屋で、真ん中に転移魔法陣があるんだけど、その上に石壁ブロックが雑に積み上げられている。


「アズールさん、転移魔法陣の前まで来ました。石壁で塞がれてるので、今から退けます」


『わかった! 僕とゲイラがすぐ行くから後は任せて!』


 アズールさんたちが来るまで待つかな。あ、でも、他のプレイヤーが来たらまずいし、さっさと転移した方がいいか。


『ショウ様。私はエメラルディアを手伝いに向かいましょうか?』


「ええ、お願いします。俺は石壁をどけたら、すぐ転移で帰ります」


『了解しました』


 さて……


「<移動>」


 積み上がってる石壁ブロックを部屋の隅っこへ避ける。

 で、転移で帰還する前に……


「ルピ。先に戻ってて」


「ワフン」


 送還でルピが戻ったのを確認して唱える。


「<転移:屋敷裏>」

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