第545話 ゲームチェンジャーの参戦
「ふう……」
大きくひとつ深呼吸。
サバナさんの島に行くんだけど、やるべきことは本当に最低限だけのつもり。それを頭の中で整理する。
アージェンタさんに乗ってサバナさんの島へと。
第七洋上中間港っていう古代遺跡の港を見つけ、そこから内部に侵入して死霊都市へと繋がる転移魔法陣がある場所を探す。
何かしら蓋をされてるはずなのでそれをどけて、あとはアズールさんたちに任せて、俺は転移で戻ってくる。
『ショウ君。そのケイオス帝国からはスタートできないそうです』
「え? マジか。うーん、なんかそういう設定できるのかな?」
鎖国設定とかできるんだろうか?
いや、できたからって、俺が建国宣言するわけじゃないけど。
「まあいいや。サバナさんの島に人がこれ以上増えないなら、それはそれでラッキーかな」
『どういうことでしょう?』
「えーっと……」
ミオンに島へ行った後の行動予定を説明しておく。
できるだけ誰にも見つからないままでミッションを終わらせたい。なので、あっちの島にいる人は増えない方が嬉しい。
『なるほどです。転移魔法陣が使えるようになったら、部長に連絡ですね』
「あ、いや、一応、それはこっちからアズールさんに連絡するよ。なんでそれを魔女ベルが知ってるんだってなると迷惑かもだし」
『あ、そうでした……』
万事うまく行ったら、その時は死霊都市でサバナさんを心配してる人たちも動いてくれるだろう。
てか、そのあたりはアズールさんに説明しておかないと……
『アズール、バーミリオン。居ますか?』
『いるよー。どうしたのー?』
『何かあったか?』
急にびっくりしたけど、アージェンタさんのギルド通話か。
アズールさんやバーミリオンさんに状況を説明してくれるのがすごい助かる。
ちょうどいいし、俺からも向こうへ行って何をするつもりかを説明しておく。
『了解。ショウ君から連絡が来たら、無理やり押し入っちゃうでいい?』
「できれば穏便にですけど、そこはお任せします」
この状況ならしょうがない気もするし。
『俺はどうすりゃいいんだ?』
『そちらの監視に問題がないようなら死霊都市へ移動を。警戒を強めた方が良いでしょう』
『わかったぜ!』
で、装備を整え終えて戻ると、アージェンタさんは準備万端、いつでも行けますよという表情。なんだけど、
「姫ぇ。私も行っていいですかぁ?」
「エサソンを助けたいのね?」
「ぁぃ」
そのやりとりにアージェンタさんが困り顔で俺を見る。
だから、俺にパスされても困るんだけど……
「エメラは妖精の気配に敏感よ。逃げているエサソンたちを探せると思うわ」
「なるほど……。じゃあ、島の手前で俺たちとは別行動にしてもらっていいですか? エメラルディアさんにはエサソンと一緒に行動してる人たちを保護してもらえると」
それはそれで陽動になるはず。
アージェンタさんにお願いするつもりでいたけど、エメラルディアさんに任せた方が良さそうだし。
『ショウ君。エメラルディアさんもギルドメンバーに』
あ、そうだった。別行動するなら、連絡取れるようにしておかないと。
ギルド管理の魔導具(魔導証明書管理機)を持ってきて、エメラルディアさんを追加する。
あれこれしてるうちに時間は午後9時前。そろそろ動き出さないとまずい。というか、明日は学校あるし。
「じゃ、行きましょうか。作戦時間は2時間。それをオーバーした時点で、どうするかを伝えます」
「承知しました」「ぁぃ」
あとは俺がちゃんとアージェンタさんに乗れるかだよな……
………
……
…
『ショウ様、大丈夫ですか?』
「大丈夫です」
やっぱり離陸する時が一番怖い。けど、上空まで上がってスピードが出始めたら、もう平気になる。
もうアージェンタさんに任せるしかないので、ビビっててもしょうがないって気持ちになるし。
『目的の島がそろそろ見えてくるはずです』
アージェンタさんが何かしているのか、すごいスピードが出ているにも関わらず、風圧などは一切無い。
俺がまたがっている背中部分も、本来なら銀竜の鋭い鱗に覆われてるんだろうけど、今はまるでミオン家の車みたいな快適さ。
ただ、会話はずっとギルド通話を使っている。
これはエメラルディアさんやアズールさん、バーミリオンさん、エルさんにも伝わるようにだ。
『島への上陸はどのように?』
「上陸する前に、一度、上空をゆっくり飛んでもらえますか? 海岸沿いに大きな港があるはずなので、そこを探しましょう」
『了解しました』
うちの島の古代遺跡も小型魔導艇を格納できる港があったし、そこから侵入できるはず。
「エメラルディアさんは、エサソンたちを見つけたら連絡してください」
『ぁぃ』
そんな話をしていると、
『ショウ様、目的の島が見えてきました。速度を落として上空を通過します』
「お願いします」
真下を覗かないといけないなと思っていたら、アージェンタさんが気を利かせて少し離れた場所から時計回りにぐるっと一周してくれた。
「ああ、あの灯台の近くが港っぽいですね。アージェンタさん、気づかれないよう水面ギリギリを飛んで近寄れますか?」
『お任せください』
「エメラルディアさん。行ってもらって大丈夫です」
『ぁぃ』
アージェンタさんがいったん島から距離を取るように進路を変え、逆にエメラルディアさんが島へと飛んでいった。
しばらく飛んだところで、ゆっくりと旋回しつつ下降したアージェンタさんが、水面を滑るように灯台へと向かう。
『あの堤防に着陸します』
「はい」
すーっと近づいて、音もなく着地するアージェンタさん。俺が降りやすいよう、首を低くしてくれた。
ざっと見回した感じ、うちの島よりもずっと大きな港で、この堤防もその先にある灯台も倍ぐらいの大きさがある。
そして、
「古代遺跡の入り口はあれっぽいですね」
「ええ、竜の都にあるものと同じのようです」
左手側に見えるのは大型船が入るサイズの乾ドック。
その奥にある崖に、大きな両開きの扉が見える。
そこまで来たところで、アージェンタさんとは別行動になる。
「では、私はここで待機しております。何かありましたらご連絡を」
「すいません。お願いします」
アージェンタさんは俺の隠密行動にはついてこれないし、万一、俺が転移できない状況だと帰りに困るので待ってもらうことに。
エメラルディアさんには、サバナさんたちを見つけて護衛するようにお願いしているけど……、最悪、南の島に避難してもらうことも考えないとだな。
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