第544話 ゲームチェンジャーの憂鬱
は?? 建国宣言!?
なんでこのタイミングでなんだよ! っていうか、うちじゃないよな?
「ショウ様?」
「あ、えっと、すいません。ちょっと席を外します」
とりあえず、ミオンにも建国宣言が聞こえたか確認しないと。
お客様をほったらかしにしちゃうけど、先に事実確認をしたい。
応接室を出て、キッチンの方へ向かう途中で、ミオンがお菓子山盛りの大皿を持ったまま走ってきた。
「ショウ君!」
「聞こえた?」
「はぃ!」
当然だけどミオンにも聞こえてたようで、ケイオス帝国(?)って名前での建国宣言。
「場所どこだろう。この島じゃないよね? あとは南の島の可能性がありそうで怖いんだけど……」
「私、ログアウトして部長と連絡を取りましょうか?」
「う……、ごめん。お願い」
南の島で建国宣言されたんだとしたら、ちょっと洒落にならない。
ベル部長かセスか、誰か白銀の館の人がいるはずだし、それだけでも確認しないと。
「配信はしてますよね?」
「うん。ミオン限定配信のままだよ」
「はぃ」
大皿を受け取って、ミオンが寝室へと向かったのを見送り、応接室へと戻る。
「すいません。お待たせしました」
「ショウ様。私たちはそろそろお暇しようかと」
バタバタしてる俺たちに気をつかって、そう切り出すアージェンタさんだけど、状況がわかるまでは絶対にいてもらった方がいい。
「ああ、待ってください。新しい国が出来たって話が飛び込んできて」
その言葉にアージェンタさんとエルさんが驚きの表情に。
まずはお菓子の大皿をテーブルに置いて座り直し、今、ミオンが詳しい情報を問い合わせてる旨を説明。
『ショウ君。部長と連絡が取れました。建国宣言が行われた場所は、サバナさんの島だそうです』
は? なんでそんなことになってるんだ?
俺の怪訝な表情が気にならないわけもなく、アージェンタさんが心配そうにしている。
「えっと、建国宣言が行われたのは、さっき座標を調べた転移魔法陣がある島らしくて」
「そうでしたか」
と少しほっとした様子のアージェンタさん。
詳細な状況がわからないし、サバナさんが建国宣言したにしては、国名に違和感があるんだけど……
「アージェ、その島には何があるのかしら?」
「第七洋上中間港という、大型魔導船が寄港できる港湾施設があるようです」
「あと、エサソンっていう妖精がいるとか。俺が聞いた話はそれぐらいです」
エサソンって言葉に、ぴくっと反応するエメラルディアさん。
そういえば、エサソンたちって国民になったってことなのかな?
『エサソンちゃんたちは、サバナさんやファンの人たちと一緒に島の奥へと逃げてる最中だそうです』
「え?」
建国宣言したのはサバナさんじゃなくて、島を訪れた、もとい、強引に押し入ったプレイヤー(?)らしい。
その勝手に建国した連中から逃げるため、サバナさんとファン数名が配信をオフにして逃亡中っていう。
まあ、ライブ配信をオンにしても、得する可能性が高いのは押し入った奴らだけだよな……
『今、なんとか秘密裏に連絡を取る手段がないか、部長たちも模索中ですけど……』
ミオンから聞いた話をアージェンタさんたちにも共有。さすがにこの話には驚いたようで、
「エメラ、待ちなさい。どこに行こうというの?」
すっと立ち上がったエメラルディアさんの腕をアージェンタさんががっしりと掴み、白竜姫様が厳しい目つきで問いただす。
「ぅぅ、でもぉ……」
「あなた一人で行っても話をややこしくするだけよ。アージェもその島の場所はわかっているのね?」
「はい。先ほど、ショウ様のおかげで把握できました」
アージェンタさんの答えを聞いて、白竜姫様が俺を見る。
つまり、サバナさんたちの救出にアージェンタさんたちを派遣するっていう選択肢もあるってことだよな。
「うーん……」
サバナさんやエサソンたちを助けたい気持ちもあるし、同時に問題を起こした人たちで解決できないのっていう気持ちもある。てか、氷姫アンシアは何やってたんだよっていう……
『向こうの島の転移魔法陣が封鎖されていて、今のところ誰も打つ手がない状態だそうです……』
そりゃそうするよな。ってことは、その島に行ける方法があるのは俺だけか。
今は……午後8時半を回ったぐらい。
「アージェンタさん。ここからその島までってどれくらい掛かります?」
「そうですね。15分といったところでしょうか……」
15分ってすっごい早いな。
それなら、9時ぐらいまで待っても大丈夫かな。
「俺を乗せても、その時間で行けます?」
『ショウ君!?』
ミオンがめちゃくちゃ驚いてるけど、アージェンタさんに任せきりになるのもなんか違うよなと。
自分の目で状況を見て動きたいのもあるし、何より隠密行動ができる俺なら、救助じゃない解決の糸口を作ることができるはず。
「ショウ様を乗せても同じ時間で行けますが……」
あ、あれか。馬車に乗ったら数分で目的地に着くってやつと同じ扱い?
問題は高い所を飛ぶことになって、俺の心が持つのかってぐらい……
「待ってくれ。わざわざ君が行く必要は無いだろう。私が行けばいい」
「えっと、申し出はありがたいんですけど……」
エルさんには白竜姫様の護衛を優先してほしい。あと、エルさんが悪いわけじゃないけど、有翼人ってだけで警戒される可能性が若干。
誰もが俺とミオンのライブを見てるわけじゃないし、有翼人=高慢ってイメージがどうしても残ってると思う。
それを聞いて、なんとも悔しそうな顔のエルさん……
「ワフ!」
「うん。ルピは向こうに着いたら呼ぶから待ってて」
ルピなら召喚できるし、潜伏があるから、俺と一緒に隠密行動も取れる。
「じゃ、ちょっと準備してきます」
「承知しました」
また席を外して、寝室へと移動。
ククリナイフと円盾を装備しつつ、ミオンに確認して欲しいことを伝える。
「ミオン。建国宣言したら、新規プレイヤーのスタート地点になってそうなんだけど、そういう話って聞いてる?」
『あ! 聞いてきます!』
「うん、お願い」
スタート地点になってるなら、新規プレイヤーで押しつぶすことができるかも?
いや、さすがにレベル1のキャラだと厳しいか……
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