第543話 似たもの同士の顔合わせ

「ミオン。ただいま」


「おかえりなさ……ぃ」


 すっと俺の後ろに隠れるミオン。

 アージェンタさんは知ってるけど、エメラルディアさんは初対面だもんな。


「ミオン様、お邪魔いたします。こちらは翠竜エメラルディアです」


「ぇ! ぁ! ぅぇ???」


 アージェンタさんの肩越しにミオンを見たエメラルディアさんが、めちゃくちゃ驚いている。

 多分というか、ミオン=翡翠の女神様っていう認識のせいだよな、これって……


「エメラルディア。ミオン様・・・・です」


「ぁ、ぁぃ」


 アージェンタさんから「察しろ」みたいなオーラが出て、無理矢理納得させられるエメラルディアさん。


「ぇ、エメラ……でぅ」


「ぁ、ミオンです……」


 やっぱり、この二人、すごく似てる気がする。

 ミオン、最近はすっかり普通に話せてるよなって思ってたけど、相手が近しい人ばっかりだったからかな。


「白竜姫様たちは?」


「ぁ、もうリビングでおやつを待ってます」


「りょ」


 ってことで、二人をリビングへとご案内。

 先に竜族同士のお話もあるだろうしってことで、俺とミオンはお茶とおやつの用意を。


「あ、そうだ。これ、アージェンタさんからおみやげだって。花の種らしいよ」


「わぁ、嬉しいです!」


 竜の都って北の方、ベル部長たちの本拠地からさらに北らしいし、寒冷地で咲く花とかなのかな?

 まあ、その辺はもう任せちゃって大丈夫だよな。


「これを」


「うん」


 今日のおやつはルモネラジャムを載せたクッキー。あと、とろとろ干しパプを追加かな。エメラルディアさんが好きらしいし。

 それはそれとして、


「ミオン。エメラルディアさんは苦手?」


「ぁ、ぃぇ。突然、知らない人がいてビックリしただけなので……」


「う、ごめん。ギルド通話で連絡しとけば良かったね」


 ルピを可愛いといって撫でてくれたり、聞いてた通り、妖精や幻獣に優しい人っぽい。

 アージェンタさんと一緒に現れた後の様子とかを伝えておく。悪い人じゃないみたいだよってことで。

 人じゃなくて竜だけど。


「もう大丈夫です。ショウ君のお客様ですし」


「りょ。あんまり無理しないでね」


「はぃ」


 お茶とお菓子を持ってリビングへ戻ってくると、白竜姫様とエメラルディアさんが、ルピ、レダ、ロイを撫で回していた。

 ルピたちは嬉しそうだからいいんだけど、


「もふもふ〜」


「ぅへへ……」


 だらしない顔になってるエメラルディアさんがちょっと怖い……

 本当に大丈夫なのかなあとアージェンタさんを見ると、すごく申し訳なさそうな顔で小さく頭を下げられてしまった。


「アルテナちゃん。おやつですよ」


「おやつ〜♪」


「エメラルディア。あなたも席につきなさい」


「……ぁぃ」


 椅子は人数分ちゃんと揃っていて、エルさんが用意してくれたのかな。

 で、さっきまでルピたちにご執心だったエメラルディアさんの目が、今度はとろとろ干しパプに釘付けになっている。


「じゃ、いただきます」


「いただきま〜す」


 美味しそうに食べ始める白竜姫様を見て、エメラルディアさんもとろとろ干しパプを一口かじり……


「!!」


 うん、どうやら気に入ってくれた様子。

 探してたそれをようやく口にできたからか、一口一口しっかりと味わいつつ食べてくれている。というか、泣くほどのこと?

 で、それはいいんだけど、今ごろになって気がついたことが一つ。


「ミオン。スウィーたちは?」


 お客様の前なので声をひそめて。その意図を汲んでくれたのか、


「ぁ、はぃ。スウィーちゃんたちは、急にトゥルー君たちのところに行くと」


「ふーん……」


 さてはあいつ、エメラルディアさんのこと知ってるな?

 助けたフェアリーズがいたあたりから、ずーっと西に行けばエメラルディアさんたちがいたあたりになるし。

 まあ、会いたくないならいいんだけど、エメラルディアさんが、


「私、ここに住む……」


 あー、うん。そう言うと思った。


「それはなりませんよ。エメラルディア」


 とアージェンタさん。

 何気に青筋が浮いてるのが怖い……


「ぅぅ、姫はここに住んでるのに……」


 そう愚痴るエメラルディアさんだったが、


「エメラ、それはダメよ。あなたはまだ何も報いることが出来ていないもの」


「ぁぅ……」


 急に覚醒した白竜姫様からそう言われ、縮こまるエメラルディアさん。アージェンタさんもうんうんと頷いている。

 まあ、ここでオッケーしちゃうと、アズールさんやバーミリオンさんが絶対に文句言うだろうしなあ。


「しばらくは竜の都でアージェンタを手伝いなさい。そうしたら、ご褒美としてここに来てもいいわ」


「ぅぅー……」


 半泣きのエメラルディアさんだけど、白竜姫様はそれを冷静に無視して、ミオンからクッキーのおかわりを受け取っている。


「ミオン。足りなそうだし、保存庫にある分も持ってきて」


「はぃ」


 ミオンが席を立ったところで、エルさんがお茶を淹れ直してくれた。

 今後どうなるのかはわからないけど、今日ぐらいはエメラルディアさんにたくさん食べてもらうのも悪くない。

 元いた場所に戻ることになったら、マリー姉がお世話になるかもしれないし。


「しかし、お姫様ひいさま。今すぐエメラルディアに任せられそうな仕事は……」


「何もないの?」


「バーミリオンの代わりをしようにも、アズールの代わりをしようにも、この者は部下を指揮することもできません」


 アージェンタさん、身内にはバッサリ言うよな。

 それならそれで、アージェンタさんの下で働けばいいような気もするけど……


「エメラ一人で出来そうなことはないの?」


「そうですね……。何かショウ様のお役に立ちそうなことがあればいいのですが」


 ちらっと目配せというか、急に俺にパスされても困るわけで……


【ケイオス帝国が建国されました!】


「え!?」

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