日曜日

第537話 翠竜さんいらっしゃい

「大丈夫ですか?」


「ええ……」


 日曜のお昼。

 ミオンの家で昼食のあと、適当に遊びに出るみたいな話をしてたんだけど、ベル部長がぐったりしている。

 ミオンも俺も美姫も、ミオンのお母さん、雫さんが同席することはわかってたんだけど、ベル部長はそんなことは全く知らないわけで。

 芸能事務所UZUMEの社長でもある雫さんとの遭遇は想定外だった模様……


「お茶をどうぞ」


 椿さんがお茶と一緒に胃薬も置いていってくれた。

 まあ、特に何かあったってわけじゃなくて、雫さんもベル部長に「困ったことがあったら、いつでもUZUMEがバックアップしますよ」的な話をしたぐらい。

 ベル部長はライブ中心の独立系、要するに一人で全部やってて大変だろうし、UZUMEに引き入れる勧誘でもするのかなと思ってたけど。


「ごめんなさいね。食事はすごく美味しかった気がするのだけど、正直、あまり覚えてないわ」


「いや、普通の冷やし中華なんで」


 毎年、夏休み最終日の伊勢家の定番メニュー。冷やし中華終わります的な。


「あの、部長。これを」


「え? ワールドクエストのページが更新されてるの?」


「えっ?」「む!」


 その言葉に俺も美姫も反応したので、ミオンがエアディスプレイに大きくページを映し出す。


【ワールドクエスト:悪魔が来たりて】

『魔王国に侵入した悪魔は一部が討伐されたが、依然として魔王国内に潜伏中と思われる。

 また、隣国であるマーシス共和国や、死霊都市へ向かったと思われる痕跡が見つかった。奴らの目的は果たしてなんなのか……

 目標:侵入した悪魔の討伐、および、目的の調査:7%』


 ゲーム内から見られるワールドクエストの情報に加えて、悪魔が討伐された場所にバツ印がつけられたりしてて、ちゃんとしたページになっている。

 これ、今日のお昼に現れたのかな? 朝とかなら、美姫が気づいてそうだし。


「そういや、じいちゃんたちって、この辺にいるんだっけ?」


「うむ。そう聞いておる」


 俺が指差した場所、魔王国北東部の小さな村で狩猟&耕作プレイング中。

 やってることがリアルと変わらないんだけど、楽しんでるっぽいからいいのかな……


「死霊都市にも向かってるのは注意が必要そうね」


「ふむ。予想はしておったが、さらなる注意を促しておいた方が良かろう」


 そっちはもう任せるしかないんだよな。ガジュたちにも気をつけるようには言ってあるし。

 それよりも……


「で、エメラルディアさんの話なんですけど」


「うむ」


 興味津々といった顔で頷く美姫。

 昨日、アージェンタさんから来た手紙には『エメラルディアさんが、俺が作ったとろとろ干しパプを探している』という内容が書かれてた。

 なんでそんなことにって話なんだけど、ベル部長に心当たりというか、確実にそのせいだろうって報告が来てるとのこと。


「前にうちのギルドメンバーにっていろいろもらったでしょ? それを分けた時に、日持ちのするドライフルーツはマリーさんとシーズンさんに渡したのよ」


「はあ。……って、え?」


「ぁ」「ほう!」


 うなずく二人。


「えーっと、マリー姉たちがエメラルディアさんに会いに行ったんです?」


「いえ、そうじゃないの。実は……」


 ベル部長の説明とセスのフォローをまとめると、公国の南、渓谷の先を探索中のマリー姉たちが、休憩中に食べてたそれをエメラルディアさんが見つけたそうで。

 今日、遊びに来る前にギルドの連絡を確認に入ったら、その話が報告として来てたらしい。


「よく見つけましたね……」


「竜の嗅覚なのかしらね」


 で、欲しいって言われて、素直に分けてあげた二人。

 まあ、マリー姉なら素直にお願いされたら、全然オッケーしちゃうだろうな。


「それで俺が作ったってバレた感じです?」


「シーズンさんはちゃんと気を使ってボカしてくれたのよ。でも、今後も定期的に欲しいって話をされて、土下座までされたらしいのだけど、簡単には手に入らない場所のものだからって……」


 で、気づいちゃったと。あれかな?


「アルテナちゃんのお手紙でしょうか?」


「うん、俺もそれ思った」


 白竜姫様の手紙に、とろとろ干しパプのこと書いてあったんだろうなあ。

 それはもうしょうがないんだけど、欲しいって言われても届ける方法がなあ。

 マリー姉に配達してもらうのも手間だろうし、


「やっぱり、一度、竜の都に顔を出してもらった方がいいかな?」


「それがいいと思います」


 昨日はログアウト前だったのもあって、手紙の返事も出せなかったんだよな。

 事情はわかったし、手紙よりも話した方が早い気がしてきた。


「うーん、急いだ方がいいか」


「うむ」「そうね」


 ということで、ぞろぞろとミオンの部屋へと移動。もちろん、本人のオッケーをもらってから。


「ショウ君用のPCも揃ってるのね」


「はぃ」


 嬉しそうに答えるミオンにベル部長もニッコリ。

 どうしてこうなった……はいいとして、


「じゃ、ちょっと行って連絡取ります」


「うむ。フォローは見ながらでもできようて」


 サクッとログインし、いつもどおりミオンへの限定配信を。

 その様子をリアルビューでベル部長とセスにも見てもらいつつ、かな。


***


「ワフ〜」


「ごめん、ルピ。すぐ戻っちゃうけど」


 ベッドに腰掛け、隣で伏せるルピを撫でつつ、ギルドカードを取り出す。


「アージェンタさん、すいません。ショウです」


『ショウ様。手紙の方は見ていただけましたか?』


「ええ、それでですね……」


 アージェンタさんとしても、なんでいきなりそんな話にってことだと思うので、マリー姉とシーズンさんが遭遇し、俺のつくったとろとろ干しパプを食べたことを伝えた。


『姫からの手紙にも、この島の乾物のことが書かれています。おそらく、それで気づいたかと』


 と、エルさんが聞いてたのかフォローしてくれる。


『なるほど。しかし、どうしたものやら……』


「俺が用意するのは全然いいんですけど、運ぶのも大変ですし、人のいるところも苦手って話だし、やっぱり竜の都に来てもらう方がいいんじゃないですかね?」


『ええ。しかし、お姫様が……』


 ああ、ほっといていいって言ってたもんな。


『アージェンタ様。今、姫から「竜の都に呼び出してから、この島へ連れてくるように」と……』


 あー、うん。

 まあ、バーミリオンさんも来てたし、今さらか……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る