第532話 牧場物語 女神と妖精と幻獣の島

 結構なスピードでアンバーナウトがいた場所まで戻ってきた。

 ざっと周りを見回したけど……、他の動物やモンスターは見かけないな。


「どの辺にいるか聞いた?」


「リュリュ」


 パーンが指差したのはさらに先。

 ルピたちには引き続き先行警戒を任せつつ、草原の北側の方向へと走る。


「ワフッ!」


「リゲル! モンスターいるよ!」


「ブルル!」


 その言葉に、さらにスピードを上げるリゲル。

 なだらかな斜面を駆け上がると、その先に広がる草原の先に森がまた見え、


「グォオオオン!」


「でっか!」


 アンバーナウトより、二回りぐらい大きな牛が。

 それが雄叫び(?)を上げながら真っ直ぐに突っ込んでくる。


「避けて!」


「ブルルン!」


 無茶振りっぽい指示に、しっかりと応じて右へと避けてくれるリゲル。

 通り過ぎていく瞬間に【ホガニーブル】という名前が見えた。

 ネームプレートが赤だし、倒しちゃっていいだろう。


「グォオオォォ〜」


 20mほど行った先で器用にUターンしたホガニーブルが、また俺とリゲルを目掛けて突進してくる。

 いったん降りて受け止めるかと思ったんだけど、


「ヒヒーン!!!」


 大きく前足を振り上げたリゲルがそれを地面に叩きつけると、ホガニーブルの眼前に大きな氷の塊(?)が現れた。

 当然、それを避けることができず、真正面から突っ込んで跳ね上がるホガニーブル。


「ガウッ!」


「「バウッ!!」」


 その隙をルピたちが見逃すわけもなく、一気に襲いかかる。

 うん、まあ、倒れちゃったらもう勝ちだよな。


【ホガニーブル】

『草原に生息し縄張り内の全てに襲いかかる牛のモンスター。

 巨体に似合わない速度で突進し、相手を吹き飛ばす行動に注意が必要。

 料理:肉は赤身で美味。素材加工:骨、皮、角は各種素材となる』


 牛肉! ステーキもいいし、ローストビーフにビーフシチュー。そうだ、ビーフカレーも良さそう。

 骨も皮も角も素材に使えるし、これは定期的に狩りに来たいところ……


「バウ!」


「ん?」


 ロイが吠え、そのまま威嚇するように唸り声を向ける先に見えるのは……黒ぶちが目立つハイエナが何匹か。


【クロクハイエナ】

『森林や草原に生息するハイエナのモンスター。

 積極的に襲っては来ないが、集団で家畜を襲ったり、戦利品をかすめ取ろうとするので注意。

 素材加工:骨、皮、角は各種素材となる』


 なるほど。俺たちがホガニーブルを仕留めたのに気付いたから、名前の通りのハイエナに来たのか。

 説明を見る感じ、アンバーナウトたちは保護して正解だったっぽい。


「ブルル!」


「どうどう!」


 リゲルが怒って突っ込んで行こうとするのを、慌てて止める。

 さっきの戦闘もそうだけど、敵とみなすと容赦ない感じでびっくりだよ。


「ワフ」


「「バウ!!」」


 ルピも怒ってるっぽいけど、唸ってるロイとレダを抑えてくれてるっぽい。

 なんだけど……


「ウオォォォ〜ン……」


「「オォォ〜ン」」


 え? ハウリング?

 まさか、ここに味方になりそうな狼がいるのかなと思ったんだけど、それを聞いたハイエナたちが一目散に逃げていってしまった。


「ワフン!」


「えらいぞ、ルピ。さすが狼の王!」


 ハウリングで威厳を示した感じかな。

 ルピ、レダ、ロイを順番に撫でて、リゲルもしっかりと褒めてあげる。

 そういえば……


「ああ、やっぱりこれ氷か。リゲルもすごいな」


「ブルルン」


 ホガニーブルが突っ込んだ氷の塊は、地面から生えたでかい霜柱って感じかな。

かなり大きなドラム缶サイズだけど。

 リゲルはグラニの中でも特殊な個体っぽいし、もうちょっと図鑑でちゃんと調べないとか。


「さて、どうするかな」


 時間は午後10時前。

 もう少し先まで見に行けそうだけど……


「ワフン」「ブルル」


 ルピもリゲルも大丈夫ってことだし、北側の森の入り口あたりまで行ってみるか。


 ………

 ……

 …


「ふう、ただいま」


「お帰りなさい」


 草原の北、森の入り口まで行ってみたけど、追加のホガニーブルはなし。牛肉はもっと欲しいところだけど、ポップしてる数が少ないのかな?

 結局、ミオンのところまで戻ってきて、リゲルは送還、みんなには転移魔法陣で先に帰ってもらって、最後に俺がその魔法陣を回収して転移で帰宅した。


「リュリュ」


「さんきゅ。ああ、近いうちに、屋敷の近くに厩舎を建てようと思うんだけど」


「ニャフ」


 厩舎を建てて、放牧地を囲って牧場に。

 リゲルやエクリューたちも広い方が嬉しいだろうし。

 屋敷の北東側、水路までまだ手をつけてない場所あたりが良さそうかな。


「2人ともおかえり」


「ただいまです」


「留守番ありがとうございます」


 出迎えてくれたエルさんにお礼を。

 転移魔法陣からアンバーナウトが次々現れた時は驚いたらしいけど、それ以外は特に変わったこともなく。


「ショウ君。ちゃんと言っておかないとダメですよ?」


「はい」


 ちょっとミオンを驚かせたかったのもあるので、そこは素直に反省しよう……


「あ、ショウ君。転送箱に着信が」


「りょ。アージェンタさんかな」


 開けると手紙が一枚と本が一冊。

 本は竜語の教科書っぽいし、ミオンのために送ってくれたやつだろう。


『ショウ様


 いつもお世話になっております。

 お姫様からエメラルディアへの手紙の件、ありがとうございます。


 さて、魔王国に侵入した悪魔の件ですが、魔王国内から死霊都市やマーシス共和国へ向かったのではないかとの情報が入りました。

 アズールからも『白銀の館』の皆様へお伝えしますが、ショウ様の方からも近しい方々にお伝えいただければと思います。


 引き続き、よろしくお願いいたします。


追伸

 ミオン様が竜語に興味があるとのことですので、かつて、竜族と親交をもった賢者が書いた教本をお送りしておきます』


 へー、竜族と親交をもった賢者か。

 俺もちょっと読んでみようかな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る